6月12日愛媛新聞夕刊社会面トップ掲載

 【高松】「”ハイ、ハイ病”を教室から追放しよう」-香川県坂出市の数校の小学校で、授業中先生の質問に声を出して手を上げるのは、いたずらに競争心をあおり、自己主張だけの子供が育つとして「ハイハイ」追放の教育を実践している。同市教委も「自己抑制力を育てる」と全面的にバックアップする力の入れようだが、一方では「高学年になればハイハイは言わなくなり、角を矯めて牛を殺すことになる。教育的には逆効果だ」と疑問視する声も出ており、論争に火がつきそうだ。
 「ハイハイ病」の名付け親は文教大学(埼玉県)の倉沢栄吉教授。その障害として①考える時間がなく直感で物事を判断する②勉強のできる子、話がうまい子だけの授業となって、性格のおとなしい子がダメになる③騒々しく競争心をあおる-などを挙げている。ハイハイ追放を教育方針としているのは、香川大教育学部付属坂出小学校(石井昇校長)、坂出市立林田小学校(坂下均校長)など同市内の数校。
 香大付属小では、ことし春、手を挙げて先生からあてられないとため息ばかり出る。自己中心的な子供の多いことに着目、ハイハイの声を教室から追放する試みを始めた。授業では即答式の問答を避け、先生が教室を回って子供たちのつぶやきやノートを観察する。また子供同士の話し合い(パネル・フォーラム)を重視するなど試行を続けている。
 香大付属小の岩倉道夫研究部長は「ハイハイを全く否定するわけではないが、せめて五-十分間じっくり考える努力を教えたい。数カ月の試みでまあ十分ではないが、それでも廊下を走らなくなったり、給食時間が静かになった。けんかしながら友達の意見を理解しようとする態度が芽生え始めている」と成果を強調している。
 これに対して「かえって児童の向上心を抑えつける」など反発しているのは、自由な教育の実践者、丸木政臣・和光学園(東京都世田谷区)校長。同氏は「自己主張は子供に本来あるもので、小学校の高学年になれば、短絡的ではなくなり、ハイハイも言わなくなる。一概に悪いとは言えないが、こうした教育手段はささいなことにこだわりすぎ、やる気を失わせる」と、ハイハイを言わせないという規律づくりで授業の能率化を図るやり方だと批評している。(共同、愛媛新聞夕刊掲載)