市場から報復されたトランプ関税
トランプ政権は9日、発動したばかりの相互関税を13時間で部分凍結した。9日午前零時、アメリカ債券が急激に売られはじめ、前週末、3.9%だった長期金利は一気に4.5%を超え、0.6%も上昇したからだ。トランプ政権は予想もしなかった市場から”報復”を受けた格好となった。トランプ政権には市場ウォッチャーが誰もいなかったのかもしれない。トランプ関税が債券市場の急落を引き起こしたことによって、再び当初方針通りの相互関税率に戻すことはもはや不可能な事態となってしまった。
アメリカの国債発行額は3月時点で4100兆円。日本のほぼ4倍規模。4%の金利で160兆円の利払いが必要となる。0.6%上がると24兆円の利払いが増える勘定。日本の防衛費の3倍にもなる。国家にとって、株式市場の動向はもちろん重要な要素だが、それ以上に重要なのが債券市場だ。アメリカほどの巨大な債券市場では、0.1%でも無視できない水準なのに、2日前のアメリカでは一気に0.6%も上昇したのだからたまらなかったのだろう。
相互関税を凍結したのは、アメリカとの協議に出る可能性のある国だけで、中国は例外。中国が報復関税を決めたため、関税率は104%からさらに125%に引き上げられた。日本などにとって相互関税の凍結は”一時しのぎ”とはなるものの、世界最大の貿易国アメリカと中国が”戦争状態”に入ることは決して他人事でない。例えば、中国の鉄鋼製品の対米輸出が止まれば、その分が日本などへの輸出に回り、結果的にダンピング輸出されるならば、日本の国内鉄鋼市場に大きな影響を及ぼすだろう。中国が大豆などアメリカに依存していた穀物の調達をブラジルなどに転換すれば、世界的な穀物価格上昇の引き金となるはずだ。
石破首相はトランプとの会談で「日米の黄金時代」などとうそぶいていたが、もはや日本の利益だけを考える時代ではなくなった。日米協議の前に、アジア諸国との協調体制を考えなくてはなるまい。とにかくトランプ関税は理不尽すぎる。アメリカ国債の最大に保有国は日本。1兆1400億ドルを超える。第二位は中国、8000億ドル。一時は最大の保有国だったが、このところ保有額を減らしつつある。実はトランプ関税への最大の交渉カードはアメリカ国債であるはずだが、今のところ、中国はそこまで動いてはいない。30年前、橋本龍太郎首相が「米国債を売りたい」と発言しただけで、アメリカの激怒を招いてしまった。万が一、中国がアメリカ国債の大量売却に踏み切れば、どうなるのか世界は恐ろしい結末を迎えるだろう。