防衛費の増強が独り歩きしている。自公政権は現在、GDP比1%の5兆円強をNATO並みの2%に引き上げようとしている。目標年次は2027年であるから、5年先の話だが、すでに来年度予算の防衛費の概算要求は大幅増となっている。

ここでNATOの防衛費なるものをおさらいしておきたい。NATOが2%論を持ち出したのは2014年前後のこと。そもそもNATO、北大西洋条約機構は対ソ連の軍事同盟で、ヨーロッパ諸国とアメリカが加盟している。ヨーロッパとアメリカのGDPはほぼ同額なのに、軍事予算は1対2とアメリカの負担が2倍となっている。これを対等の分担にしようというのが2%論の根底にある。

一方、日米安保は対等な条約ではない。アメリカが日本を守るという一方的、片務条約である。しかも憲法の制約から日本がアジアの安全保障を担うという発想はない。ただただ日本を守るために自衛隊が存在している。NATOはそうではない。1国であっても侵略された場合はNATO全体が防衛する義務がある。

だからNATOの防衛費と日本とを対等に比較することすら無理がある。日本が憲法を改正して、「普通の国」に成り代わり、アジアの安全保障に対してリーダーシップを取るなら、2%論も正当な考え方になろうが、あくまで専守防衛の自衛隊でしかないのである。

2%論が春先、急浮上したのはもちろん、ウクライナ戦争が引き金である。中国が台湾に武力行使する場合の想定も語られるようになった。この場合も日本が戦争に巻き込まれることへの懸念がある。夏の参議院選では、「日本を守る」2%論を声高に叫ぶ急進派も出て来た。しかし、2%論を進めるならば、当然、憲法改正しかも加憲程度の改正では認められるものではない。

2%論の浮上で問題となるのは、歳出増である。財務省の有識者会議がこのほど、「幅広い税目による国民負担が必要」とする提言をまとめた。つまり増税だ。コロナ禍による経済疲弊、そしてウクライナ戦争をきっかけとした物価高に見舞われている現在の日本で増税論が大手を振って進められようとしている。自公政権が本気で国民負担を求めるならば、当然、国民に是非を問う総選挙が不可欠であろう。防衛費1%は三木内閣が決定した日本の国是であった。2%論は国是の変更にあたる。官邸という密室内で勝手に決められることではない。