10月20日、二つのニュースが世界を駆け巡った。イギリスのトラス首相辞任と1ドル=150円突破。どう考えてもトラス首相の方が大きい。就任後たった45日での辞任表明は、過去の首相在任期間で最短になるそうだ。そもそもトラス氏はボリス・ジョンソン前首相の辞任を受けて、保守党党首選に出馬した。国会議員による投票では前財務相のリシ・スーナク氏がトラス氏を大きく引き離したが、党員による決戦投票で逆転。党首の座を獲得した。スーナク氏はインド系議員。個人的には大英帝国の首相候補にかつての植民地だったインド系の人物がなったことが驚きだった。2009年のアメリカ大統領選でアフリカ系のオバマ氏が当選したことにも驚いたが、少なくともアメリカの植民地の出身ではない。

そもそもトラス首相の辞任は「減税政策」によってポンド安など金融が混乱したことに端を発している。そして、その減税は選挙公約だったのだ。スーナク氏が増税路線を打ち上げたのに対して、減税を公約としていた。その公約によって金融市場が混乱し、身内の保守党から辞任要求が相次いだのだから、おもしろい。日本では起こり得ない政治現象であろう。

イギリス保守党は来週にも党首を選ぶ投票を行うが党員投票が可能か不明。すでに前首相のボリス・ジョンソンの名前も浮上しているという。僕としては減税路線が否定されたのなら、増税路線を掲げたスーナク氏が再び候補になるのが筋ではないかと思う。意識調査で過半数の支持を得ている労働党などは総選挙を求めている。少なくとも短期間で2人続けての首相辞任はたぶんイギリスの政治史上、前例のないことだろう。保守党自らが選んだ首相を辞任させたのだから、民主主義の鉄則でいえば、解散総選挙の実施は自明の理ではないだろうか。

一方のドル円相場である。大方の予想の反してあっさり150円の壁を突破した。アメリカのFRBによる来月、再来月の金利の大幅引き上げが相次ぐと予想されているため、日米金利差はますます拡大し、円安はさらに進むだろう。次の壁は1990年3月の最安値157.25円だ。これを超えるともう1ドル=240円前後だった1985年9月のプラザ合意まで壁がなくなる。つまり日本円は底なし沼に入る。日銀の黒田東彦総裁は大規模緩和の維持の姿勢を崩していない。金利を上げるほど日本経済は回復していないことを強調しているが、円安が国内物価を押し上げる主な要因となっていることは確か。円安を止めなければ、国民の生活は守れないことも確か。企業にとっても輸入原材料の高騰は大きなマイナス要因だが、金利引き上げも痛しかゆしとなる。しかし、そろそろ財界から「円安阻止」を求める声が高まるはずだ。国民の声などはこれまでほとんだ政策に反映されてこなかったが、岸田内閣の通貨政策をめぐって政府と経済界が対峙する日もそう遠くない気がする。