9月22日、アメリカが政策金利0.75%の利上げに踏み切り、イギリスも0.5%、スイスも0.25%引き上げ0.5%とした。各国は今後もインフレ対策として金利を挙げる方向。しかし日銀も金融政策設定会合を開いたが、ゼロ金利を維持した。主要国でゼロ金利を維持するのは日本だけとなった。この日、フィリピン、インドネシア、台湾もアメリカに合わせて政策金利を引き上げた。

この結果、ドル円相場は急騰し一時1ドル=145円の水準を超えた。しかし、夕方、財務省が為替介入を行い、相場は一挙に5年円高に振れた。多くのメディアは朝刊で「為替介入」をトップにした。だが、僕は145円を超えた方をニュースとしたい。市場では、介入だけでは円安は防げないと懐疑的な見方が強い。投機筋の次の照準は確実に150円だろう。

みずほ銀行 チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏は「ドル高政策として成功した米国のリパトリ減税」と題してロイター通信に興味ある投稿をしている。

外貨準備を使って円買いを促すではなく、日本企業が海外に保有する外貨を日本に還流させても同様の効果は得られるというのだ。2005年にブッシュ政権がドル安対策として実施した本国投資法(HIA、リパトリ減税)である。当時、アメリカの多国籍企業は海外子会社が稼いだ利益を本国へ還流させる(リパトリエーション)にあたって課税されていたため、海外に利益が留保されやすい状況にあった。

ブッシュ政権は、2005年に海外子会社からアメリカへの送金に関する税率を1年間限定で35%から5.25%に大幅に引き下げた。その結果、ドル円相場は103円から118円まで上昇した。引き下げ幅が大きく、時限措置であったことから、その効果は絶大で2004年から2005年にかけて法人税額は、前年の1.7倍の2783億ドルまで急増した。それだけ米国内へ還流された額が大きかったことが分かる。

経済産業省の「海外事業活動基本調査(2020年度)」によれば、海外子会社の内部留保残高は約37.6兆円存在する。過去10余年にわたって対外直接投資が劇的に増えた結果、日本企業は多くの外貨を現地で抱えるようになった。内部留保残高の10%ならば3.8兆円、20%ならば7.6兆円、30%ならば10兆円の円買いになる。10兆円と言えば、2022年1─8月の貿易赤字(約12.2兆円)をほぼ帳消しにする効果が生まれ、円安要因を打ち消す力になり得る。

唐鎌氏によると、「自国の企業部門が稼いだ利益を原資に自国通貨買いを増やし、それを起点として賃上げや設備投資といった内需刺激に還元しようとする政策は正攻法であり、他国から後ろ指を指されることもない。金融政策上の小細工を弄して市場との間に投機戦を強いられるよりも、日本経済が保有する外貨が国内に還流する方が「真っ当な一手」に思える」。こんな手法があったとは知らなかった。

https://jp.reuters.com/article/column-karakama-daisuke-idJPKBN2QH0DE