1964年からNHKが放映し、人気を博した人形劇。武井博ディレクターが「ひょうたん型の小さな島に自分勝手な大人としっかり者の子どもたちが住んでいる。その島を漂流させて、行く先々で騒動を起こす」というアイデアを思いつき、脚本に無名だった井上ひさしを登用した。ともに20歳代だった。

 二人は小岩のアパートに隣同士として住み着き、アイデアを練った。銭湯でスポンジを浮かばせて思いついたのが動く島という発想だった。ひょうたん島で暮らすことになった個性的な面々は、ライオン王国、南ドコニカ、アンコロピン王国、クレタモラッタ島、カンカン王国といった架空の国々をめぐり、行く先々で大騒動を巻き起こしていく。登場人物は無国籍、子どもたちはみんな親がいないという設定。争いがあっても必ず収まりがつく。もちろん子供たちの知恵で。

「平和」などという大上段に振りかざすような表現はないが、悪党といえども、良心を持っていて人助けをするなど、愛すべきキャラクターを持っていた。そんなところが子供だけでなく大人の心もつかんだ。ひょっこりひょうたん島には憎しみとか復讐とか報復とかいう発想が一切ない。もちろん正義もない。だから悪を徹底的に懲らしめるという場面がない。いまから考えれば戦争に負けた50年以上前の当時の日本人がなんとなく持っていたユートピア的思想があったと思えるのだ。