前回、パリの水道の再公営化の話をしたが、今日はイギリスの話となる。1989年、イギリスのサッチャー政権は民営化政策の総仕上げとしてイングランド、ウエールズの10社の水道事業を株式会社化し、民間に売却し、7315億円という巨額の売却益を手にした。1979年、政権に着いたサッチャー首相はイギリス病の脱却を図るため「小さな政府」に転じた。国有だった電気、石油、ガス。鉄道、航空、郵便を一気に民営化し、売却益で財政を立て直した。当時、サッチャー首相の民営化路線は世界的にも称賛され、日本もそれを真似て国鉄や電々公社の民営化を行った。問題は30年にわたる公共サービスの民営化が続く中で、果たして、民間企業による経営が効率的だったか、検証ができないでいることだった。

イギリスの水道は民営化によって巨額の売却益を得たが、30年経ってみると10社の債務は7兆1400億円にものぼっていることが明らかになった。一方で30年間の支払い配当額が7兆8000億円にも達していた。借金して配当していたといっていい。この間、下水の処理能力は最低水準のままで、企業は借金を理由に一向に改善しようとしなかったそうだ。ファイナンシャル・タイムズは企画記事の中で「水道民営化は組織的詐欺に近い」と報じるなど民営水道は逆風の立場に置かれている。民営企業を完読する規制機関はあったものの、パリ同様、ほとんど機能してこなかったのだ。

転機は2018年に起こった。会計検査院が「PFI and PF2」という報告書をまとめ、PFI事業は公営の場合より4割もコスト高になっていることを明らかにした。公共サービスの民営化によって、債務が28兆円にものぼっていた。「財政支出なしで公共サービスを賄える」というのはうそだったのだ。28年にもわたってこのことが分からなかったのは、民間の債務が自治体の会計報告に表れていなかったためである。この間、2010年には地下鉄3社が破綻し、2018年にはPFI事業大手のアリリアンも多額の負債を背負って倒産した。2018年10月、財務省はついにPFI事業の凍結を宣言した。

労働党はPFI事業の問題点を指摘し、再公営化を政策として打ち出したが、2019年の総選挙ではEUからの離脱が最大争点となって敗れた。来年2023年には再び総選挙があるが、その際の争点として公共事業の再公営化が浮上するのは間違いない。