2018年3月3日、神戸賀川記念館に招かれて講演した。タイトルは「賀川豊彦を実践する」。地域でさまざまに活躍する人を紹介するシリーズのようだった。当然ながら、コープこうべ、労金など協同組合関係者が多かった。顧問の西さんから電話があって「定年後、面白そうにくらしているじゃないか。その話をせよ」との話があって、「ひょっとしたら賀川の暮らしぶりに通じるものを見出せるかもしれない」と考えて快諾した。

実は、その年から、高知市鏡地区吉原で2反の畑を借り始めていた。高知市農業委員会の手筈で借地契約をし、めでたく「農民」となった。農業委員会の事務局長は土佐山の知人の岩崎さんだった。岩崎さんに「農民に認定されると農地を買えるようになるのです。おめでとう」と祝福された。まもなくJAから連絡があり、組合員になれと要請された。たった1000円の入会費を支払い、JAに口座がつくられた。

農地を借りるようになったのは吉原地区の古老からの要請だった。高知でだれもが愛する春の山菜イタドリを「生産」する計画が出ていた。そのイタドリ「生産」に参画すると5、6万円の補助金が出るということだった。僕はイタドリは好かなかったが、耕して根っこをたくさん植え付けた。刈り取ったイタドリは地区のJA婦人部が皮をはいで煮込み、商品化する計画だった。確かキロ1000円で購入するということだったが、初年度の収入は古老の口座に振り込んでもらった。

僕がやりたかったのはクレソンの栽培だった。農地の近くにはシイタケを共同栽培していた。大胆にもクレソンとシイタケで年間100万円を稼げないかということを考えた。プラス100万円は年金生活者にはありがたい。なによりも農作業で体が鍛えられる。わざわさ、お金を払ってスポーツクラブに通う必要はない。健康のために農作業をすれば、一挙両得となる。

クレソンは10月から12月、3月から6月までとれる。8カ月、月10万円稼げば、80万円になる。シイタケは3月から4月、10月から12月。5カ月で50万円にはなる。コメは手間がかかる割に収入にならない。露地野菜は難しい。手間がかからないという点でクレソンとシイタケほどすぐれた産品はない。週に2、3回畑に通い、数時間の労働で100万円を超える収入を得ることを夢見た。

それまで、はりまや橋商店街の金曜市に出店し、山菜を販売していた経験から、クレソンは最低でも日60袋×100円=6000円の収入を得ていた。月2万4000円である。シイタケは1袋200円で多きときは100袋売れた。飛ぶように売れるのであるが、ホダ木は4年で朽ちるため、4年に一度は「設備投資」が不可欠。200本で約20万円。それでも販売量からすれば大した金額ではない。さすがにクレソンを月10万円売ろうとすれば、スーパーに卸す契約をしなければならない。週250袋を売れば10万円になる。採取と袋詰め作業で5、6時間働かなければならない勘定となる。10万円といえば、高知当たりでは時給が低いので、8時間労働で15日ぐらい働かなければならないからクレソン事業は実に楽な商売となる。

原木シイタケは誰もが買いたがるから金曜市に出せばすぐに売れる。クレソンはそうではない。まずどうやって食べるか説明が必要。おいしさ栄養価の高さも知られていない。種なし肥料なし、もちろん農薬もいらない。栽培にコストがかからない。そんな野菜はどこを探してもない。にもかかわらず、スーパーの店頭でみることはない。農家もJAもこれまで相手にしてこなかった野菜である。

はりまや橋商店街でWaterBaseを開いてから2年半になるが、毎週100袋以上のクレソンを販売してきた。知名度が上がり固定客も増えてきた。WaterBaseに来ればクレソンがある。4月からは高知空港の売店での販売も始まった。空港には週1回、20袋を納入しているが、軌道に乗れば50から100袋売れるのではないかと想定している。スーパーに卸さなくとも売り上げ月10万円が見えてきそうだ。