日本のGDPが30年間、一向に増えない理由が見えて来た。働ぎすぎといわれた日本人の労働時間がこの30年間に極端に減少していたのだ。週刊現代の最新号の「ドクターZは知っている」で詳しく報道されていて正直驚いた。30年間で400時間、つまり年間50日分の労働が消滅していたのだ。以下はその記事の詳報である。 

 1990年代半ば以降、日本のGDPはほぽ横ばいの推移を続けており、「失われた20年」などと呼ばれてきた。
 この国が低成長にあえいできたのは紛れもない事実なのだが、これを労働時間の観点から考えると、少し違った事実も見えてくる。
 OECDのデータによると、卵年における日本の労働者一人当たりの平均労働時間は、2031時間だった。これに対し、同年のアメリカは1833時間。日本の労働者はアメリカよりも、200時間近くも多く働いていたということだ。
 この時の日本の一人当たり名目GDPは約2万5895ドルで、アメリ力の2万3847ドルを上回っていた。
 ところが、2020年の日本とアメリカにおける平均労働時間を比較すると、日本が1598時間なのに対し、アメリカが1767時間。すなわち、アメリカにおける平均労働時間が約30年前とあまり変わっていないのに、日本では400時間以上も減少しているのだ。
 これに呼応するように、20年の一人当たり名目GDPも、アメリカが6万3358ドルであるのに対し、日本は4万88ドルと逆転している。
 低成長の問題もさることながら、単純に日本人の労働時間が減っていることが、名目GDPの減少に大きく作用している側面もあるのだ。
 では、なぜ日本における平均労働時間は減少したのか。その要因は様々あるが、一つの大きな契機は、匍年代の貿易摩擦のなかで「日本人は働きすぎだ」という批判が欧米諸国の間で高まったことにある。
 これに対処するため、日本政府は88年の「経済運営5ヵ年計画」にて、年間の労働時間を一人当たり1800時間程度とする目標を定めた。。
 こうした流れのなかで週休2日制が定着し、92年の「労働時間の短縮の促進に関する臨時措置法」制定を経て、92年には、「労働基準法」の改正により、法定労働時間は長らく続いてきた週当たり原則48時間から、40時間まで減らされている。
 では仮に、日本における平均労働時間が今も90年と変わらなかった場合を想定するとGDPはどれくらい大きくなるのか。物価の影響を除いた「実質」で比較してみよう。
 筆者の試算では、90と比較した場合の19年の日本の一人当たり実質GDPは約1・58倍。これは、アメリカの1・55倍よりも大きい。
 また、イギリス(1・52倍)やフランス(1・36倍)、ドイツ(1・47倍)など、他のOECD諸国を上回っている。
 この90年と同水準の平均労働時間で計算した一人当たり実質GDPに、現在の日本の人口をかけ合わせてみると約690兆円になる。これは20年の実質GDPである約530兆円よりも、160兆円も多い。
 岸田文雄政権では「成長と分配の好循環」を目指しているが、もし日本人が90年と同じ平均労働時間で働けば、計算上はこれだけの富を生み出すことが可能なのだ。
 もっとも、現実には19年の「働き方改革関連法」の施行以降、日本の労働時間は減少の一途を辿っており、今後増加に転じることは考えにくい。日本人が世界有数の「仕事の虫」だった時代は、すっかり幻になりつつある。(週刊現代、2022年1月22日から)