中国、河北省雲崗石窟に日本の弥勒菩薩にそっくりの石像を見つけて興奮したことあがる。40年も前の話である。雲崗は北魏時代の石窟寺院として有名で巨大な仏像がいくつも山腹に彫られている。そんな寺院を散策するうちに、数十センチの小ぶりな仏像があった。こんな小さな仏像はみんな見逃してしまうのではないかと考えていたら、井上靖が日経新聞の日曜版で、まさしく僕が見つけた宝物について言及していた。さすがに井上靖だと見直すことになった。日本の弥勒菩薩は京都の広隆寺のものと、斑鳩の法隆寺のものが有名であるが、雲崗の弥勒菩薩はどちらかといえば、広隆寺のものに似ている。

 中国の仏像は一般的に目がぎょろっとしていて心の休まるものは少ない。北魏は中国大陸の北部を3世紀ごろから支配した国家。鮮卑の拓跋部というモンゴルアルタイ族の遊牧民族の人々が形成した。言語体系も中国人とは違い、どちらかといえば、朝鮮、日本に近い。大陸から伝播した仏教の流れは多くあるが、その一派は西域から北中国を経由した形跡があるとされる。白鳳時代につくられた日本の仏像に北中国の影響があったとしてもおかしくない。そんな思いがずっとしている。いつかまたこの仏像と出会える日があるのか分からないが、僕を魅了した仏像の一つであることに間違いない。