12月18日(金)のテーマは「移民と国家の理念」です。時間は午後7-8時。場所ははりまや橋商店街。

以下は2000年に「150万人の外国人受け入れが自然体」と題して書いたコラムに対するイギリス在住だった読者の感想文です。当時、萬晩報にはずばらしい読者が多くいたことに今更ながら驚いている。

日本にない外国の青年達を惹きつける『理念』 近藤佐知彦(英国)

最近社会心理学で博士号を取ったものの、現在はオーバードクターの『住所不定無 職』状態に悩む(気持ちだけは若いつもりの)中年失業者です。

ここ五年間ほどを英国で大学院生として暮らし、日本の国際化などについて色々考え ることがありました。伴さんの《150万人の外国人受け入れが自然体》について少 々私なりに思うところがあったのでお便りします。

ヨーロッパの各国では『単一民族神話』等とは無縁に、異なった文化的宗教的背景を 持った人々を受け容れ、ホストカルチャー(例えば英国文化)の中に取り込みつつあ ります。インド系英国人もイスラム系や中国系の英国人も同じ市民として、それぞれ の文化的アイデンティティを保持したまま、英国社会に寄与する体制が作られつつあ ります。つまり彼らはきちんと働いてきちんと税金を払い、イギリス社会・経済の活性化に貢献しているわけです。

近い将来日本でも「色の黒い人」、「目の青い人」、「髪の縮れた人」、「少し日本 語がおかしい人」等を積極的に日本社会を構成する重要な要素として取り込む必要が あると思います。いわゆる3K労働に限らずあらゆる場面で、彼らにいわゆるヤマト 民族と一緒に働いて貰わなければ、これからの少子化・高齢化社会は立ちゆかないで しょう。管理職に至るまで有能な外国人を日本に呼び込み、彼らの力を借りて社会運 営をしていく必要があるというのが、私の現状認識です。

つまりアジアをはじめとす る外国から頭脳労働者を含めたあらゆるタイプの労働者を受け容れ、社会を若返らせ、活を入れる必要があると思います。そしてそのためにはマルチカルチュラルな文化を受け容れるだけの柔軟性、そして社会を統合する普遍的な「力(イデオロ ギー)」がこれからの日本社会には求められるのではないでしょうか。

ここで私が言いたいのは、今の日本には経済力以外になにか外国の青年達を惹きつけ る『理念』があるのかどうか、です。アメリカやフランスであれば『自由』『平等』『博愛』といったその国のあり様を端的に表すスローガンがあり、その理念が国 を動かす大方針を示しています。そしてなによりその理念は国境・文化の枠を越えた 普遍的なものです。若者達は『自由』という理念の下に《アメリカンドリーム》を求 めてアメリカ社会に積極的に関わっていく動機付けをされているでしょう。翻って日 本を考えると、そういう理念があるでしょうか。

これから日本社会に貢献してくれる可能性のある『非ヤマト民族』の若者に、日本国 ・社会のために仕事がしたい、と思って貰えるビジョンを示すことがこれからの僕たちの世代の日本人の責務だと思います。そしてそのビジョンは『ヤマト民族』にのみ 限定されては意味がありません。「日本は天皇を中心とした神の国」等、全く普遍性 を持たない後ろ向きの理念・イデオロギーではお話になりません。

天皇では国際化・ 多文化社会の中で『非ヤマト』を統合する力になり得ないのは明らかです。愚考する に、やや陳腐な気もしますが非武装大国(やや形容矛盾かもしれませんが)、絶対平和主義国家としての理念を研ぎすますことが、これから予想される多文化社会を統合 する一つの理念として考えられるのではないでしょうか。これからやって来るであろう「多文化」日本社会を統合できる何かの理念を確立する こと、それこそが21世紀の日本のあり方を決める一つの重要なファクターであると 思います。そして労働者の受け入れ以前に何か日本国のあり方を示す理念的なモデル を明らかにすることが、これから数年の政治論議の中で論じられるべきではないので しょうか。