時事通信配信の田中秀征氏インタビューが高知新聞に掲載された。細川護煕が脱原発を掲げて都知事選に出馬することに「「シングルイシュー」と批判があるが、田中氏は「オリンピック、防災、高齢化対策、子育てなどの問題 は、誰が知事でもやらなければならない共通の課題」と一蹴した。誰もが掲げる右へならえの「公約」などいくら並べても争点にはならない。僕はワクワクする ような争点を待っていた。

細川、小泉氏「最後の仕事」=原発避けて通れず-検証インタビュー・田中秀征氏
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2014011700669

 「細川・小泉」の元首相連合の参戦で大きなうねりを見せ始めた東京都知事選。2人をよく知る田中秀征元経企庁長官はインタビューに応じ、細川護熙元首相 の出馬決断に至る経緯を明らかにするとともに、争点について「原発の問題は避けて通れない」と強調した。田中氏に細川氏出馬の舞台裏を聞いた。
 -今回の都知事選について「災い転じて福となす」と発言しているが。
 「2012年12月の衆院選を振り返ると、当時の最大のテーマは、有権者による『民主党処分』だった。そして、自民党まで『原発に依存しない』と唱え、 脱原発を名乗るグループも分裂状況にあったため、原発の是非を問う選挙にはならなかった。今後3年間は国政選挙はないと言われる中で降って湧いた都知事選 は、猪瀬直樹前知事の不祥事によるものだが、天が与えてくれた得難い機会だ」
 「首都の問題イコール国の問題。それに都民の将来の経済と生活を語ろうとしたら、原発の問題は避けて通れない。この機会を無駄にしてはいけない。3年間 は国政選挙がないから、その間に特定秘密保護法や集団的自衛権の行使容認をさっさと片付けてしまおうという(安倍政権の)考えも成り立たなくなったと思 う」

 ◇細川氏、野田元首相に失望
 -争点は何か。
 「オリンピック、防災、高齢化対策、子育てなどの問題は、誰が知事でもやらなければならない共通の課題。違いはやはり原発だ。今は、原発依存度をゼロに した場合、何で補うかという供給の議論ばかりで、電力需要を減らす消費構造の議論がない。省エネルギーの技術開発、電力の無駄遣いをなくすなどの議論が必 要だ。例えば、大学や商店街などが個別に『地産地消』に取り組み、都が補助金で応援することもできる。細川さんにはそういうことをやってもらいたいと考え ている」
 -細川氏の出馬決断に至る経緯は。
 「彼は1993年に政権を取った時から、『質実国家』を掲げ、大量生産、大量消費、大量廃棄の経済社会を続けていいのかという問題意識を持っていた。原 発を容認してきた『世代の責任』を強く感じており、野田佳彦首相(当時)にも働き掛けた。ある日40分間もかけて、『何をやっているんだ。もっと脱原発を 鮮明にしろ』と気合を入れた。(しかし、野田氏は応じず)『全然駄目だ』と。自分の弟子だと思っていただけに、非常に失望して本当に怒っていた。その時、 細川さんはそこまで脱原発に真剣なのかと思った」
 「そういう中で、フィンランドのオンカロ(核廃棄物最終処分場)を見てきた小泉さん(純一郎元首相)に声を掛け、去年の10月21日に3人で会った。そ の時、2人の『本気』を感じた。『(脱原発は)どうしてもやらなきゃいけない最後の仕事だ』という雰囲気が漂った。小泉さんは『もう自分の仕事は終わった と思っていたのに、とんでもない大きな仕事が舞い込んだ』と言っていた。この年にして、こんなに熱っぽく、捨て身の覚悟で最後の仕事に臨もうとしているこ とに心を打たれた。2人はトップの政治指導者だっただけに、感じている責任の重みが違うということもよく分かった」

 ◇小泉氏「寝言すら実行」
 -猪瀬氏の辞任はその後だが。
 「だから、その時は都知事選うんぬんという話は全くなかった。動きだしたのは年末だ。小泉さんは、中川秀直元自民党幹事長から『細川さんに立って欲しい という声がある』と聞かされ、『細川さんが立てば、俺は応援する』と言った。その話を聞き、私から細川さんに伝えた。『小泉さんは寝言で言ったことも実行 する人。つぶやきを翻すことすら知らない人間だ』と。そしたら、細川さんは『小泉さん、本当にそう言ったんですか』と。それまで他の人を擁立したいと考え ていた細川さんも、そこから真剣に検討し始めたんだと思う」
 -昨年10月の会合以降、細川、小泉両氏は何度か会ったのか。
 「細川さんが出馬表明し、小泉さんが支援を約束した1月14日の会談まで全く会っていない」
 -細川氏は年齢の問題もあり、逡巡(しゅんじゅん)したと思うが。
 「年の問題もあるし、オリンピック東京招致に賛成してこなかったこともある。佐川急便の問題も蒸し返されて、自分の思いがストレートに有権者に届かない 場合もあるとも考えた。でも、そういう障害を全部乗り越え、どうなってもいいから、やろうという決断をしたのだと思う。ここで黙してやり過ごせば、原発政 策が変わらないばかりか、次の大きな原発事故を待つだけという流れになってしまうと思ったんだろう」

 ◇「東京・東北五輪」に
 -自民党などは、国政上の問題を都知事選に持ち込むのは筋違いとけん制している。
 「相撲に例えると、原発以外の都政の課題は、一つ一つの相撲の取り組み、原発の問題は相撲を取る土俵をどうするかという問題だ。それを争点にしないと言 うのは、議論を封じることでなし崩し的に原発を推進しようということ。原発が必要だと言うなら、正面から正々堂々と必要だと論陣を張るべきだ」
 -東京五輪への細川氏の考え方は。
 「彼は被災地支援に取り組んできて、東北をものすごく重視している。実質的に東京・東北オリンピックにしたいという気持ちがある。競技の一部、例えばマ ラソンを持っていくとか。そういうことを真剣に考えている。商業主義が前面に出たオリンピックよりも、もっと簡素にできないかとも考えている」

◇田中秀征氏略歴
 田中秀征氏(たなか・しゅうせい) 長野県生まれ。73歳。東京大文、北海道大法卒。1983年衆院選で初当選。93年に自民党を離党し、武村正義氏ら と新党さきがけを結成、代表代行に。細川政権で首相特別補佐、橋本政権で経済企画庁長官を歴任。小泉政権では、有識者による「小泉首相と談論する会」座長 を務めた。96年の落選後もテレビ、雑誌などで発言を続ける。福山大客員教授。著書に「判断力と決断力」「舵(かじ)を切れ」など。
(聞き手=時事通信社編集委員・芳賀隆夫)(2014/01/17-18:02)