ここは地の果てアルジェリア、「カスバの女」のメロディが蘇ってくる。32年前にアルジェリアでないが戦争中のバクダッドに企業戦士として赴任した。20代前半の若者にとって異国の地で大型プロジェクトに従事することは大いなる憧れであった。大袈裟かもしれないが命をはって仕事をした。そして実際に戦闘にも巻き込まれた。
 日本で平穏無事なサラリーマン生活に何の魅力も感じないあまのじゃくにとって生き甲斐、報酬、危険の狭間の中、国際貢献という抽象的な名目に任せ海外で生活し、自分を鍛えることこそ我がテーゼであった。日本企業の企業戦士としての海外赴任、国連の職員として途上国援助の仕事。戦争という外部要因とマラリアという内部要因との戦いでもあった。
 日本から逃避しながら途上国で学んだことは、「開発協力は人類の義務である」と語った開発協力の父である久保田豊氏の名言である。戦争や紛争の一因として貧富の格差が挙げられる。地域格差とグローバルな経済、技術力の格差を縮めるためにも開発協力は重要な役割を演じている。
 ダイナミックな仕事は、ハイリスク、ハイリターンである。加えて、途上国での大型プラントの仕事や開発援助の仕事は国益を超越して地球益としての崇高な目的をはらんでいる。そこに身を置く覚悟があるなら徹底的にリスクマネジメントを研究し実践することが必要である。
 アルジェリアの悲報に接し、北アフリカの地の果てで崇高な仕事をされた企業戦士に尊敬の念を抱かずにはいられません。同時にリスクが高いから途上国のビジネスを回避する方向に向かってはいけないと思う。恐らく、途上国で勤務した多くの人々は、改めてリスクマネジメントについての戦略が必要であると考えておられると思います。
 途上国の大型プラントがテロのターゲットとなる本質的な要因は何処に起因しているのであろうか。第一に、途上国からみれば先進国による資源の搾取と映る。第二に、中東や北アフリカの不安定な政治、経済、社会、宗教的な要因が政府軍と反政府軍やテロ組織の対立を助長させており、大型プラントが格好のターゲットとなっている。第三、テロ組織が仲間の釈放等で政府と交渉するのに海外プラントに働く外国人を捕虜にするのが手っ取り早いと考えられている。
 かつては人道的な観点から人命が最優先されてきたが、人種、宗教に根ずくテロの温床を根絶するためには、一切の妥協を許さず速やかな戦闘行為を遂行することが正当であるという考えが広がっている。
 要するに途上国でのプロジェクトのリスク要因はかなり高いのである。このリスクを軽減するためには、安全保障(セキュリティ)の情報や知識を拡充させることが大切である。しかし、最高の安全保障の情報に精通しているとされるアメリカであってもリビアのアメリカ領事館がテロ組織により襲撃され大使などが殺害されたことからリスクマネジメントの限界がある。
 海外の大型プロジェクトに関し、現実的に企業から見ればリスクがあっても利益も重要であるし、国家の視点からもエネルギー資源の確保は国是であり、開発協力や技術移転の観点からも建設的な関与が不可欠である。
 企業、国家、国連による多国間協力、集団的安全保障などを充実させ途上国のビジネスを遂行させるシナリオを描く必要がある。情報を拡充させたり経験則を活かすことによりリスク軽減につながるだろうが、特効薬のようなクスリは、中東や北アフリカの現在の特殊状況においては「リスクのクスリ」は存在していないと思う。しいて言えば、信頼のおける現場の状況に精通したローカルスタッフのネットワークを強化することがリスク軽減につながると読む。
 ぼくは思う。開発協力は崇高な仕事であり、報酬も多いがリスクが伴う。世界は不確実性の高い地でもある。日本は安全なように思われているが世界から見れば地震ベルト地帯であり、津波も発生するし、いまだ放射能が漏れている危険な所でもある。そのように思うと、昔ほど途上国で働く元気はないが、どうせ今を生きるなら命がけで途上国の大型プロジェクトに企業戦士として働くのも悪くないと思う。そのためには、企業とか国家に頼るのでなく自分で身を守るという直感に基づくリスクマネジメントの徹底に努めたく思う。