土佐山日記11 哲平と由美
7月20日(金)。朝から晴れている。夏空になりそうだ。昨日は長躯車を走らせ、旧物部村谷相を訪れた。常滑から移り住んだ陶工の小野哲平さんと布作家の早川由美さんが暮らしている。ともにその道では知られた人であるが、僕は知らなかった。アカデミーには二人の著作やDVDがいくつかあった。
若いころは子ども連れでアジアを歩き回る奔放な生活を続け、いったん常滑に住んだが、1998年、哲平さんの作品の展覧会が高知で開催された時に谷相を紹介されて永住を決意した。哲平さんは最初から直感的に「山の上のこの地だ」と気に入ったが、由美さんによれば「私も子どもたちも常滑に帰りたいと毎日泣いていた。でも今は本当によかったと思っている」という。
谷相は雲の上とまではいかないが、物部側に沿う県道から細い林道を30分近く上ったところにある。周囲はハウスと田んぼの段々畑が広がる。アカデミーのフィールドワークの一環として二人から「生き方」や「暮らし方」を学ぶ授業だ。
冒頭、受講生は「自己紹介」を”強要”された。哲平さんの遣り方なのだろう。金さんが「学校でITを習い・・・家具職人になりたくて・・・庭師の見習いに・・・」と話はじめると、哲平さんが「ぐるぐる回っているだけじゃないか、早く家具をつくれよ」とするどく切り返した。言外にアカデミーなどで学んでいる場合でないというようなことを言った。「主体は自分の中にしかない。他者に頼るとかじゃなくてやりたいことを自分でやるというのがおれたちの選択だ」
植松さんが「ウエブデザイナーを11年やってきて、好きだったが、辞めてしまって・・・」。ここでもするどく突っ込まれた。「好きなら続ければいいじゃないの。一人でやってみればいいじゃないか。経営できるとかできないかじゃなくて、あなたのウエブが欲しいという人は必ずいる。そういう思いでやればいいんだ。強い思いがあれば結実するものだ」
気まずい雰囲気になった。短い一言一言すべてにうそはない。反論すらできない。そこにスタッフの内野さんが柔らかく受講生の質問を代弁してくれる。
「みなさんは哲平さんたちがどうやって村の人たちに受け入れられていったか興味があるんです」
「常滑にいた時は一切地域との関わりがなかったが、子どもを学校にやるようになり地域との関係ができ、おんちゃんやおばちゃんが好きになった。PTA会長をやったり、区長もやるようになった。ここで一生を、と思ったことは大きい」
哲平さんはつまり、村の人たちとの距離を時間をかけて縮めていったというのだ。
由美さんの方はちょっと違う。農業を通じてご近所との対話をどんどん拡げていった。梅取りの楽しさ、栗の木を3本植えた話、ハチを飼い始めたこと。
「ここで暮らすことが知恵なの」
「村の人の手の力にすごいものがある」
「種つくって次の世代につなぐことができるかな」
「村の経済学って書けないか考えているのよ」
村人の名前が次々と出て来てあふれんばかりの笑顔をふりまく。男と女の違いもあるだろうが、ともに村と生きる人間となっていたのが印象的だった。 ここまで書いていると外は大変な雨になっていた。
哲平とユミ http://www.une-une.com/