7月13日(金)。今日は土佐山の人たちが僕ら受講生を歓迎してくれる宴会が午後6時からある。それまでになんとか日記を仕上げたいと思って書き始めている。
 今日の授業は山のてっぺんで直径3メートルほどの池を作る作業だった。先生である林さんがホワイトボードに二つの池の絵を描いて説明を始めた。
 左の池で魚を飼います。右の池では野菜を水耕栽培します。左の池では魚が生息するため餌の残りや糞などで水質が悪化します。しかし逆からみれば栄養分でもあります。その水をポンプで右の池に送り込むとその栄養分で野菜が栽培されます。栄養分は野菜が生育する中で野菜に吸収されるので、水質が浄化します。浄化した水を再び左の池に戻してやれば、左の池の水がきれいになります。それをくり返せば、栄養分の補給なくして永遠に野菜栽培が可能となるというわけです。このシステムはアクアポニックといって5、6年前にハワイで商業化に成功した循環型植物栽培です。
 林さんは「では始めましょう」といって我々を二つの班に分けた、第一班は「土木」つまり池づくり。第二班は苗床づくり、ハワイでは椰子の実の繊維を使うが高知に椰子はないから「シュロ」の繊維。この繊維に野菜の種を埋め込む作業だ。
「どちらを希望しますか」という林さんの声に3人が「苗床」といった。僕を含めて残りの6人は力作業となった。
 林さんの魂胆は土佐山でアクアポニックの実験をやって成功させることにある。お金がないからすべて手作りから始まった。池はもちろん僕らが掘ってビニールシートを敷いたものである。ポンプを動かす動力は75ワットの太陽光パネル1枚。電池に電力を溜めて24時間稼働させる。魚は後で食べられるようにと「あめご」が撰ばれた。育てる野菜はミツバとケールである。
 アクアポニックのシステムでは、土で育てるのに較べて、3分の1から4分の1のスペースで野菜をつくることができ、しかも育つスピードが通常の2倍以上。必要なエネルギーは70%から90%も少なくていいという報告がある。
 日本ではまだ珍しいこの実験をド素人の受講生たちが土佐山で行う。穴掘りに疲れた我々だが、何かわくわくする瞬間である。炎天下に始まり、豪雨の中で終わった。本当にそうか、結果はこの3カ月で分かるはずだ。
 作業が終わって池に水を張ると歓声が上がった。まもなくオニヤンマが飛来して、水面に尾っぽを向けて産卵した。初めて見る光景だった。