ワイルドな棚田の田植え
7月から土佐山アカデミーの受講生になる。その予行演習のため、同アカデミーが主催する棚田の田植えに参加した。
鏡川の支流の渓流沿いの棚田8枚を約20人で一緒に作業した。田植えは初めてだった。天候は予報が300ミリの雨を予想して いた。畔は狭くぬかるんで一歩間違えば下の田圃に落ちそうになる。棚田にはイモリやカエルがそこかしこにうごめいていた。深いところでは膝小僧まで埋まる。
引かれた線の通りまっすぐに植えるのはなかなか難しい。「だから前向きに田植えした方がいいんですよ」。そんな指摘を受けて方向転換。とたんに田植えのスピードが増した。夢中になるとみんな黙ってしまう。「むかしは早乙女たちが田植え歌を歌ったんなよな」。そんな会話をしながらまた黙々と田植えが続いた。
僕は最後ま でブーツでがんばったが、2時間後、田植えが終わるころに多くの人は裸足になっていた。植えた苗はゆるい土に申し訳程度しか差し込まれていない。こんなものでちゃんと根が張るのか不安になる。不思議なことだが苗の横をずぼずぼ歩いても苗が傾くことがない。
広さは合わせて1反もないということだった。秋には5、6俵のコメが穫れるのだろうと思うと雨も苦にならなかった。
田植えの後はオーベルジュ土佐山の温泉に入って、近くの囲炉裏小屋で楽しみのバーベキューが始まった。肉はシシ。3日前に仕留めたイノシシは焼き肉用はもちろん、大きな鍋に骨付き肉の煮込みもあった。「これは頭、これは骨盤」と説明が続く。「味 がついていないので、自分で塩こしょうをしてかぶりついてください」。
かなりワイルドだが、若い女性も無心にシシの骨にかぶりついている。だが考えてみれば、シシ肉にかぶりつくなどということは大したことではないように思えてきた。
山に生きるということは、タンパク源を確保するためにシシを仕留めたり、解体したりすることも含まれる。血が残ると臭いが残るから血抜きも大変だ。そんな話も聞いた。土佐山アカデミーの授業にひょっとし てそんな体験があるとしたら大変だ。これは覚悟がいるな、そんな思いが脳裏を駆け巡った。