久しぶりに伊勢神宮を訪ねた。早朝の木漏れ日が美しかった。再来年10月、この地で式年遷宮が行われるのはご存知であろう。
 内宮にある山田工作所では宮大工による槌音が響いている。その日のために150人の宮大工が日々、社殿の木造りに励んでいるのだ。たぶん日本で最高レベルの木造建築の技が磨かれているのだと思うと厳粛な気持ちにならざるを得ない。木造で日本一ということは世界に類を見ないということにもなる。
 式年遷宮は神道の宗教儀式であるとともに、日本に伝わる古来の伝統木造技術の伝承のためにあるとさえいわれている。コンピューター抜きで生活ができない21世紀に、伊勢神宮だけは別世界といっていい。コンピューター技術に劣らない精緻な作業が宮大工たちによって続けられているのだから、ユネスコの世界遺産などとは異次元の人間の知恵と技による空間である。この時代に、何とも表現しがたい気持ちにさせられる。
 伊勢神宮の参拝者は年間400万人を数える。式年遷宮の年には倍増するといわれているが、今年は遷宮2年前にもかかわらず800万人に近い参拝者になるとみられている。遷宮に向けて国民の関心も否応なく高まっているのだそうだ。
 伊勢神宮の社殿はすべて萱葺きである。萱職人もまた全国から集められ、今年4月から工作所で働いている。新しく葺き替える屋根は40棟近くあるため、使用する萱の量も半端でない。山田工作所には専門の萱小屋が4棟もあり、8年かけて刈り取られた萱ですでに満杯となっている。萱の一束は1メートル20センチの縄で束ねられており、重さは約40キロ。それが2万3000束を数える。
 遷宮の作業を7年前から日々、記録している人がいる。伊勢文化舎の中村賢一さんである。かつて伊勢市に「伊勢人」という隔月の雑誌があり、その編集者でもあった。7年前、遷宮の儀式が始まり、ご神体を奉納する器である御樋代木(みひしろぎ)をつくるご神木を切り倒す壮麗な儀式が木曽山中のヒノキの天然林であった。偶然となりに座っていたのが、中村さんだった。たがわず伊勢の生き字引のような人だった。12日の夜、その中村さんと遷宮について語ったことも付け加えておかなければならない。