システム屋が書いた青春小説『ぼくらの大脱走』
共同通信時代に47NEWSで一緒に仕事をした鳥井良二があるとき、「相談があるんですが」といってお茶に誘われた。お酒だったかもしれない。そこらはよく覚えていないが「小説を書いたんですが、読んでくれますか」というので驚いた。鳥井はシステム屋さんなのだ。そちらの方面では会社で評価されていたのだろう、ボストンのMITに留学を許されていたぐらいだったから。その方面では一目は置いていたが、その鳥井がまさか小説までかくとは思わなかった。
家に帰ってもらったワードの文章を一気に読んだ。翌日だったか「面白かった」と返事した。鳥井の文章を読んでいた思い出したのが井上ひさしの学園小説『モッキンポット氏の後始末』だった。井上ひさしが自らの生い立ちに重ね合わせた小説で、上智大学で世話になっていた神父さまをいたずらで困らせながらも慕っていく青春を描いていた。
万城目学の『鴨川ホルモー』もまた学園物だが、こちらは「オニ」を主題にしている。いたずらというか京都に住む「オニ」たちに翻弄される学生たちの物語でとても新鮮な面白さがあったが、鳥井の場合は韓国人の神父が運営するある町のミッション学校での出来事が語られる。
ここらがけっこうポイントだと感じた。日本人の生徒と韓国人神父との間に違和感がない。それから日系ブラジル人チームとサッカーの試合をする場面もあって、時代を映す鏡ともなっている。
小説としてはほかに意外な展開は少ないが、随所で笑え、泣かせる。さわやか系でもある。数学の面白さ、とくに素数のなどがでてきたり、学園でミニFM局を始めたりするところなどにシステム屋さんの発想もある。
4年前に読んだ原稿より数段洗練されているのは、何年もかかって推敲を重ねた結果だろうか。当時、小生も「小説は素人だけど、話の展開をこうしたらどうか」などへたなアドバイスをしたこともあって、本屋さんから出版されたことはとてもうれしく感じている。1470円は高いか安いか・・・、少なくとも小生は高くはないと思う。(伴 武澄)