4日午後、日比谷公園の「年越し派遣村」を訪ねた。驚いたのはボランティア募集のコーナーが長蛇の列になっていたことと募金のところにも列が出来ていたことである。住民以外の人の方が多いという印象だった。
 主催者はいまの日本人の心をしっかりと捕らえているなと感じた。日比谷公園は東京都の管轄だから勝手にテントを張ることは許されない。東京都の許可を得ているはず。しかも厚生労働省から見下ろせるその下の公園に多くのテントを張ったから、霞が関の役人も無視できない。なかなか”巧妙な作戦”なのである。
 後日の報道によれば、500人の派遣村住民に対して、協力したボランティアは延べ1700人、募金は2300万円に及んだというのだから日本も捨てたものではない。
 ちょうど緊急集会会が開催されていて、500人の村民のうち260人までの収容先が決まったことが報告されていた。壇上には野党各党のリーダーを含めて20人ほどの国会議員も結集していた。問題は自民党の議員が一人もいないことだった。空気を読めないとはまさにこのことだ。大手メディアが連日、大きく報道している場に一人もいない。
 あーこれで自民党は総選挙で完敗する。そんな予感がした。
 民主党の菅直人氏はあいさつで「2兆円の給付金を使えば、100万人の失業者に1年にわたり毎月17万円を支払える」と述べ、政府は方針を撤回するべきだと主張した。鈴木宗男氏は「明日(5日)からの通常国会でまず職を失った人たちに住むところと食べるものを確保するべきだとする国会決議を出しましょう。超党派で」と述べて喝采を浴びた。
 集会を聞いてから二時間ほど日比谷公園内をぶらぶらして考えさせられることが多かった。生産活動の委縮によって派遣労働者の首切りが列島を覆っている。10年前、経団連会長だった奥田碩氏は「社員の首を切るなら経営者が先に自らの首を切るべきだ」と言っていたことを思い出した。
 今回、目立つのはトヨタとキヤノンの派遣切りである。経団連の御手洗会長はキヤノンの会長でもある。企業活動だから何でもありではない。少なくとも10年前に経団連の会長はそうはしなかった。日本には日本のやり方があると主張した。奥田発言で実はアメリカの格付け機関はトヨタの格付けを落とした経緯もあった。
 総務省の坂本哲志政務官は5日、派遣村の住人に対して「本当にまじめに働く人たちなのか」と発言した。なんとも悲しい人である。
 麻生首相はこの「派遣村事件」をきっかけに政策転換ができたはずである。「やっぱりこの金はみんなに配るのではなく、必要としている人たちのために使う必要があると判断した」といえば、国民は喝采したに違いない。麻生首相は格好のチャンスを逃したのだ。
 小泉さんが首相に就任して2カ月、ハンセン病の高裁判決が出て、国が敗れた。小泉首相は機敏に「上告せず」の判断を示した。政治家はこうでなければならないと思った。小泉さんの高い支持率はその時から生まれたことを思い出した。(伴 武澄)