アメリカのビッグスリーの経営は末期的症状である。今年の売り上げが前年比3割減、4割減では経営が成り立たないのも当然である。昨年来、債務超過となっているゼネラルモーターズが依然として上場し続けられるのが不可解である。
 日本の自動車メーカーも対岸の火ではなくなった。トヨタ、ホンダでさえ、通年赤字経営となる見通しを発表した。この先、どこまで赤字が膨らむのかさえ見えなくなった。販売台数減と円高が経営を挟撃している。特に円高が1ドル=80円台が定着するとほとんどの輸出企業が先の見えない経営環境に突入するはずだ。
 自動車に次いで危ないのがメディア業界である。大手新聞でも赤字に陥るとされ、、一部の全国紙では身売り説もうわさされている。なぜ自動車と新聞なのか。職場で議論になった。双方とも90年代の「価格破壊」にさらされなかった業界だという結論に達した。
「なるほど」。そういうことかもしれない。環境問題と燃料費の高騰が日本の自動車業界を後押しした。円高でも輸入ディーラーが差益還元を十分しなかったことも幸いした。新聞業界は独禁法の手厚い保護に守られながら、日本語という”障壁”で外資と直接競合することがなかった。しかも電通、博報堂という広告業界の寡占が世界的にも高水準の広告費収入を維持してきた。
 トヨタは2007年、生産台数でGMを抜いて世界のトップに躍り出たが、この10年間で生産を2倍に増やしている。80年代の日米自動車貿易摩擦の反省から、各メーカーとも国外での生産に力を入れてきた。海外生産の強化によって、結果的に円高にも強い企業体質になったが、この10年の日本車の売れ行き増で輸出にも拍車がかかり、為替変動に極めて弱い体質に戻っていたのだ。
 国内での自動車離れはきのう、今日に始まったわけではない。その昔、若者が就職してまっさきに買うのがマイカーだった。しかし、初任給は据え置かれ、年功序列賃金が廃止される中で、自動車価格はどんどん上がってしまった。むやみな排気量アップや装備品の高級化が原因である。金利は低いとはいえ、自動車ローンへの恩恵はあまりない。自動車離れが進むのも当然である。
 なぜ、自動車は価格破壊を免れたか。理由は単純である。90年代に進んだ円高にもかかわらず、輸入車ディーラーは輸入車価格を高い水準に据え置いたから、国内メーカーは価格面での競争にさらされなかった。トヨタのカローラとフォルクスワーゲンのゴルフは古くから世界市場でシェアを争ってきたが、日本でのゴルフはカローラの2倍近い価格で売られている。オーナーとなれば、部品や車検価格に「輸入車」というハードルもある。
 輸入車は高いというバカバカしい常識が今もって日本では通用しているから不思議でならない。多くの業界では輸入品との価格競争で、「価格破壊」を余儀なくされたのに、自動車業界だけはその競争にさらされなかった。短期的には幸運だったかもしれないが、ここへきて円高の「免疫力」のなさが業界に大きな試練となって跳ね返ってきているのだ。(続く=伴 武澄)