【北海道新聞 2008 年 1 月 27 日付 11 面「寒風・温風」から転載】

 北海道独立論
 長年、多くの人を引き付けてきたテーマに「北海道独立論」がある。歴史上の有名なエピソードは「蝦夷(えぞ)共和国」だ。明治元年(1868年)、榎本 武揚率いる旧幕府軍が函館を占拠した。榎本は、英・仏の領事、艦長とも面談し、「事実上(デ・ファクト)の政権」と認められた。現在でも、実効支配と他国 の承認があれば「独立国」とみなされる。明治2年5月、箱館戦争が終結するまでのごく短期間、いわば幻の地方政権が北海道に存在したといえよう。
 ユニークな発想
 これまでに数多くの「北海道独立論」が発表されてきた。筆者が知り得た範囲で代表的な業績の一つは、終戦直後の昭和21年(1946年)、河野広道・北大農学博士が著した「北海道自由国論」だ(博士の父は、北海道史の第一人者、河野常吉)。
①北海道の気候風土を生かした独自の文化・産業を打ち立てるべきこと
②国土面積、人口、食糧自給といった独立の基礎的条件は整っていること、など今日の「北海道独立論」の骨格を示した先駆的著作といえる。
 また、わが国を代表する文化人類学者、梅棹忠夫氏が昭和35年(1960年)に書いた「北海道独立論」は、現在読んでも全く古さを感じさせない。異質と同質、分離と統合という文明論的観点から北海道を実に生き生きと論じている。
 その他、数ある「北海道独立論」の中には、ユニークなものも多い。例えば、「ヒグマ共和国」というネーミングや、独自通貨を発行しようというアイデアも ある。ちなみに北海道通貨の名称案は「ピリカ」、補助通貨は「マリモ」だ。円やドルとの交換レートを、ピリカ安の水準に設定すれば、産業競争力は弱くと も、為替効果で輸出が促進されるという指摘(共同通信社・伴武澄氏)は興味深い。

 活発議論で利点
 「架空国家論」という限界はあるにせよ、「北海道独立論」が活発に議論されるメリットは大きい。第一に、独立論の中核は、いかにして北海道の産業を振興 し、「外貨」を稼いで、財政面でも自立を図るかという点にある。今後本格的に検討される道州制の議論と本質は全く同じだ。
 海外を見渡すと、北海道と大体同規模ながら、オープン政策により経済的に成功している北欧諸国が多い。社会福祉も充実している。こうした「小国・開放型モデル」は将来の北海道の重要な参考になるだろう。(上野正彦元日銀札幌支店長)

 北海道が独立したら 伴 武澄