リーマン・ブラザーズの破綻から1カ月。世界の株価は乱高下し、先週は売りが売りを呼ぶ急降下、日米とも8,000のインデックス割れを覚悟した投資家が多かったはずだ。
 週末、ワシントンでG7が開催され、世界的金融危機に「あらゆる手段」をとることを確認した。金融機関への資本注入を積極的に行うことを宣言したのだ。G7を受けて、週明けの株式市場は一転、ロンドンもニューヨークも日本も急騰した。過去最大の上げを記録したところもある。
 まずイギリスは主要3行に6兆円の資本注入を発表、ドイツが70兆円(資本注入は14兆円)、フランスは50兆円(同5.6兆円)の支援策を相次いで公表した。
 極めつけはアメリカ。先に75兆円の支援策を発表していたが、ブッシュ大統領は14日、75兆円のうち25兆円を大手9行に注入すると発表した。欧米で200兆円にも及ぶ資金を金融危機に投入する覚悟をしめしたのだから、市場が反応しないはずがない。
 10年前、日本が金融危機に陥ったとき、政府が準備したのは30兆円。うち11兆円を資本注入のための資金とした。日本の場合、救済策を小出しにしたことが批判されたが、今回の欧米の措置はまさに「大盤振る舞い」。だが逆に考えると後がない。これで金融不安を防ぐことができなければ次なる策がないということにもなる。
 市場は当面「とりあえず」安堵している様相だが、楽観はできない。昨日のニューヨーク市場は月曜日の勢いを受けて「400ドル」程度上げて始まったが、勢いが続かず「76ドル安」で終わった。15日の東京市場も早くも息切れ、不安定な動きで推移している。(午前11時現在)
 欧米の巨額の金融支援が実際に始まると起こるのは、不動産価格のさらなる下落である。不良債権の処理により、不良債権が拡大したのは10年前の日本で経験済みである。
 日本の場合、不良債権を手にしたのは金融機関や企業だった。個人の不動産が市場で投売りされることはなかった。多くの不動産取得者はローンを払い続けたのである。しかし、アメリカのプライムローンの場合、ローンの支払いができなくなれば、その家を出るだけで後の負担はない。これからもこうした「損切り」が続くのだと想像している。そうなれば、不動産市況の危うさは90年代の日本の比ではないことが分かる。
 実体経済への影響はいうまでもないが、欧米政府がこれだけの資金調達をすれば当然起きるのが「金利の高騰」である。10年前の日本の場合は国内の資金で政府の資金調達が可能だったが、アメリカなどはそれでなくとも日本や中国に国債を買ってもらってきた経緯がある。海外勢からの資金調達であるから、当然それなりの金利が必要となる。
 ウォーレン・バフェット氏がゴールドマン・サックス救済で求めた優先株の利回りは10%である。不動産市況の下落が続く中で、二桁の金利が世界経済の負担にならないはずはない。(伴 武澄)