5月1日から全国のガソリンスタンドは一カ月以上前と同じ風景に戻ってしまった。そして日本は土木国家から脱却する格好のチャンスを失ってしまった。
 世界的に日本のガソリンの税負担が低いという指摘がある。勘違いをしてはいけない。ヨーロッパ各国のガソリンの税負担はもともと日本より小さかったが、 環境問題が浮上した90年代以降負担を増やしてきた歴史がある。風力や太陽光発電の買い取り原資などに使われており、その負担は環境問題を改善させる目的 で国民の合意を得ているものなのである。半面、日本では今も昔も道路という土木の中核事業につぎ込んできた歴史がある。50年前の国民合意の下に。
 日本は先進国の中でも飛びぬけた貯蓄王国である。1400兆円とされる国民の貯蓄はGDPの3倍近くもある。 一方で世界最大の借金王国でもある。国・地方併せて1000兆円を超える借金がある。これができたのはひとえに国民の貯蓄があったおかげである。これだけ のお金を外国から借りていたらハイパーインフレでとうの昔に財政は破綻していたはずである。
 何が言いたいのか。政府、自民党は国民の蓄財をいいことに予算を土木につぎ込んできた。そしてこらからもつぎ込むぞという決意表明が4月30日の再議決なのである。
 日本の地方経済が公共事業依存体質になって久しい。田中康夫氏が知事として単身、長野県に乗り込んで改革を試みたが、志半ばで敗退した。土建屋を敵にし たまでは威勢がよかった。県庁職員に厳しさを求めたとたんに裸の王様になってしまい、メディアの理解も失った。土木の本丸に本格的改革の手を差し入れて落 選してしまったといっても過言ではない。
 ガソリン税の問題はいくつもある。特定財源、税率、暫定措置、特別会計・・・。だが分かりやすいのは地方は道路がほしいのではなく、道路予算がほしい、お金を落としてほしいのである。
 自民党の道路族としては道路予算を確保しさえすれば、理屈はどうでもいい。特定財源制度がなくなっても「10年で59兆円」が約束されれば、一般財源か らもぎとれると考えているに違いない。小泉政権時代は特定財源さえも大きなハードルだった。このハードルを越えたからといって問題が解決するわけではない のだ。
 予算を大幅に削らなければならないが、予算の手をつけたとたん役人の総すかんに出会う。役人が寝てしまえば行政は止まってしまう。特に地方では役人=有権者でもある。役人が一族郎党を巻き込めば落選する可能性だってある。
 民主党が再議決に腰が引けていたのは、たぶん、民主党もまた同じDNAを党内に持っている証しなのである。小沢代表も地元に帰れば土建屋を基盤とした選挙をしている。
 土木国家から脱却のチャンスは長年の課題であることは誰もが知っている。が実際に各論に入ったとたんに四面楚歌となる。
 少々、絶望的でもある。

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