自民党総裁選で福田さんも麻生さんも「地方重視」を打ち出している。たぶんマスコミが喧伝する「改革によって 生じた格差」という問題を意識しているに違いない。安倍首相が小泉さんの改革路線を継承したため、参院選で大敗したのだと信じているとしたら大きな間違い であろうと思う。
 小泉さんは改革を唱えて5年近くの政権を維持したという事実を忘れてはならない。郵政民営化の必要性を訴えた昨年の総選挙でも「改革」を前面に押し出し大勝した。問題は安倍首相が同じことを唱えても国民の心に訴えるものがなかったということなのだ。
 この間、野党もメディアも「地方と都市との格差」を「小泉改革」に結びつけて批判した。安倍政権は「美しい日本」と「戦後レジームからの脱却」を掲げたが、改革政策の主張は中身のない空虚な響きしか伝わらなかった。
 改革とは官僚支配からの脱却である。小泉さんがうまかったのは官僚と自民党の古い体質との対立を際立たせることで国民の圧倒的支持を受けた。一方の安倍 首相も官僚を「敵」に回そうとしたがあまりに非力で対立軸を明確にできなかった。安倍首相は前政権の官房副長官時代、拉致華族問題を重視し、北朝鮮を”挑 発”することで人気を得た。しかし、いったん首相になると全方位に目配せが必要となり、あれだけ固執していた靖国参拝もあっさりやめてしまった。筆者は首 相の靖国参拝について是々非々の立場だが、言行不一致はまずい。
 参院惨敗後の安倍首相は「反省すべきは反省し」などと政権維持に固執した。自民党内でもほとんど不協和音は聞かれなかった。筆者は「何を具体的に反省するのか」分からなかった。おぼろげながら見えてきたのは”地方軽視政策”を反省しているらしいことだった。
 さて「地方格差」は何によって生まれたのだろうか。そもそも地方と都市部の格差はなかったのか。格差はもともとあったのだ。その格差を少しでも埋めようと日本国がとってきた政策が「公共事業」による財政出動だった。
 バブル崩壊で大打撃を受けたのは地方ではなく、金融不安に陥った大手銀行を中心とする大都市経済だった。政府は大都市が地価下落で打撃を受けたにもかか わらず、公共事業の大盤振る舞いで地方に巨額の資金を流し続けた。その挙句が財政の破綻をもたらし、経済のマイナススパイラルに陥った。
 小泉さんが偉かったのは、古い体質の自民とが強く要求した財政出動という打ち出の小槌を振らなかったことだと思っている。というよりこれ以上の財政出動 をしたら金利の上昇をもたらし、経済成長どころでなくなる、つまり日本の財政がこれ以上借金をできない限界点に達していたということなのだろうと信じてい る。
 大企業を中心として経済はここ数年、史上最高の利益を上げるなど”絶好調”だが、財政は過去の大盤振る舞いがたたり機動力を失っている。福田さんや麻生 さんが「地方重視」といったからといって、10年前のような財政出動を期待したら大きな勘違いである。国庫はもとより地方財政ももはや打つ出の小槌をふる ような状況にないことだけは肝に銘じるべきである。(紫竹庵人)