2007年2月4日 証券経済倶楽部

 1.奇瑞自動車が2位
 1月の中国自動車販売で独自ブランドの奇瑞汽車が3万7207台。上海VW、一汽VWを一気に抜いて4万570台だった上海GMに次いで2位となった。この勢いが続けば、年内に月間販売でトップに立つことは間違いない。年間売上台数でもトップになる可能性が高い。
奇瑞は、1997創設したばかりの企業。安徽省と蕪湖市政府の出資によって設立した。「QQ」「東方之子」(イースター)がGM大宇車とデザインが酷似したことと奇瑞の英語社名CheryがシボレーのChevyと一字違いであることが問題となり、GMからデザイン盗用があるとされた。
 しかし、外資ばかりの自動車産業で純国産車が販売でトップになることは中国にとって大きな意味合いを持つ。
 2.世界第二位の販売台数
 2006年の中国の自動車生産、販売はそれぞれ727万台(30%増)、721万台(25%増)と大幅に増加した。乗用車は523万台(33%増)、517万台(30%増)。
 前年の販売は576万台で、日本の585万台に届かなかったが、06年日本の販売台数が約2%減の573万台だったから、一気に日本の1.3倍の販売市場にのし上がったことになる。生産台数700万台はドイツとフランスの合計とほぼ同水準。日本は生産面では1000万台を超えているが、数年で生産台数でも中国の自動車産業は日本を追い抜くことになる。
 中国の自動車産業はいまだに外資依存であることは確かだが、いずれアメリカを追い抜くことは間違いない。一部では2020年に1500万台という見通しも出ているが、この見通しはかなり過小評価的数値でしかない。いまは合弁という形で経営しているがいずれ民族資本化する時代もやってこよう。世界の大手メーカーは今後、中国の産業政策に大いに振り回されることになりそうだ。
 3.中国の伝統的自動車産業
 中国の自動車産業は1956年、ソ連の支援で長春に立ち上げた「第一汽車製造廠」が先駆け、「解放」という名のトラックをつくり、やがて高官用の「紅旗」が誕生。上海汽車はソ連の中型セダンボルガをモデルにした「上海」を製造した。多くの都市で自動車が製造されたため、車名には「北京ジープ」など都市名がつけられた。78年の改革開放まではほとんどモデルチェンジもなく、トラックを中心に10万台程度の生産台数が続いた。
 大手は第一汽車、上海、東風(バス)、北京(ジープ)の4社だった。東風は湖北省武漢市でバス。
 幹部用の乗用車はクラウンとセドリックばかりだった。市民の足としてタクシーさえ使われなかった時代である。
 4.先行したフォルクスワーゲンとダイハツ
 外資導入のため、外国人を迎える必要があり、自動車の需要が格段に広がった。ポンコツの上海に乗せるわけにはいかなかった。外国のお客さまが市内を観光するのに大量のタクシーも必要となった。そんな時代に、1983年、AGMは北京でジープ生産を開始した。ダイハツとワーゲンが中国で自動車生産を開始した。主にタクシー向けの需要だった。幹部は相変わらずクラウンとセドリックを愛用していた。
 フォルクスワーゲンが上海に進出したのは1986年。アメリカにあった工場が地球を一周して日本の裏庭にやってきたといわれている。日産で製造していたサンタナの中古ラインともいわれている。ダイハツは1000ccのシャレードという車を淡々とノックダウン製造していた。
 5.三大三小二微政策
 94年7月に公布した自動車工業産業政策は中国の自動車産業を確立するため、外資に依存することを決めた。江沢民政権はGMやトヨタなど日米のトップ企業を排除して、ヨーロッパのメーカーに協力を仰ぐことになった。「大」は上海と第一汽車とそれぞれに合弁を持っていたフォルクスワーゲンと神龍汽車-シトロエンという組み合わせ。「小」は北京ジープとAMC,広州-プジョー、天津汽車-ダイハツ。「微」は軽自動車で長安鈴木、貴州航天-富士重工
 6.GM、ホンダ、トヨタの追随
 98年にGMが風穴を開けた。江沢民とクリントンの蜜月時代である。プジョーが広州から撤退したため、ホンダが参入する余地が生まれた。トヨタは90年代前半から中国進出に意欲を示していたが、80年代後半に「中国にモータリゼーション時代がくるとは考えられない」という意味のことを言って中国側の逆鱗に会ったが、ついに90年、ダイハツの提携先だった天津汽車との合弁にこぎ着けた。
 三大三小二微政策はもはや風前のともしび。いつの間にか全面的門戸開放が始まった。
 7.韓国車の参入
 2002年、自動車生産は300万台の大台に乗せた。しかし乗用車の需要は100万台とまだまだだった。それが4年で5倍の500万台を超えたのだからすさまじい勢いと言わざるを得ない。昨年、市場の話題をさらったのはヒョンデ北京の躍進である。価格競争力を背景に、「エクセル」「エラントラ」が2位、3位といきなり売上トップテンに入ってきた。
 中国における自動車販売の急拡大はまさに中国経済が消費部門に火が付いた証拠でもある。それまで静観していた民族資本が胎動してきた時期と重なる。現在、中国には100社を超える自動車メーカーがある。主力は先に紹介した奇瑞汽車と吉利汽車(杭州市、元不動産)である。
 奇瑞は7車種。今年に入っての売れ筋はA5やTiggo。
 8.一汽によるクライスラー買収話が浮上
 これは中国の自動車産業の現在の地位を象徴する話題である。MGローバーは2005年、すでに南京自動車に買収されている。実現性は薄いと思うが中国第一汽車集団を民間企業と思ってはならない。国営企業であるから資金は潤沢である。
 勢いづく奇瑞の尹同耀董事長は1月23日、「中東、東欧、南米に組立工場を建設する方針」を明らかにした。2月1日、フィアットと合弁の検討に入った。