2006年05月08日(月)萬晩報通信員 成田 好三
 札幌ドーム開設前の古い話です。読売巨人軍は毎年夏場に「札幌シリーズ」を主催していました。開催場所の札幌・円山球場には照明設備がありませんでしたから、試合は当然デイゲームで行われました。
 しかしです。その当時、巨人軍の主催試合を「独占中継」していた日本テレビは、昼間に行われた札幌シリーズ3連戦を、臆面もなく夜のゴールデンタイムに放送していました。
 すでに結果の分かっている試合を夜に全国録画中継する。いまではあり得ないことです。当時、日本テレビは何故、そんな変則的な番組編成をしたのでしょうか。答えは簡単です。それでも他の番組をはるかに超える高視聴率を稼げたからです。
 共同通信が5月1日、巨人戦の視聴率に関する記事を配信しました。短い記事なので、ここに見出しを含め記事の全文を掲載します。

 ■巨人戦の視聴率が過去最低 4月の月間で12・6%
 ビデオリサーチは1日、各テレビ局が4月に中継したプロ野球巨人戦ナイターの月間平均視聴率が、関東地区で12・6%だったと発表した。月別の集計が ある1989年以降で、4月の月間平均視聴率としては過去最低となった。ビデオリサーチによると、これまで4月の巨人戦ナイターの月間視聴率は、昨年の 12・9%が最低。ことし4月で最も低かったのは、26日の対広島戦(TBS)で8・8%。最も高かったのは、21日の対阪神戦(日本テレビ)で16・ 3%だった。巨人は原辰徳新監督の下、4月末で2位中日に4ゲーム差をつけて首位に立っており、好成績が視聴率に結び付かない結果となっている。(共同通 信、5月1日)
 時代は大きく変わりました。ほんの3年ほど前ならば、誰も考えもしなかった現象が起きています。2004年のプロ野球再編騒動以降、それまでは永続的に 続くと考えられてきたプロ野球人気、なかでも球界の盟主と自認し、他球団もそれに依存してきた巨人軍人気に大きなかげりが現れてきました。
 開場以来、連日「大入り満員」をうたってきた東京ドームに空席が目立ち始めました。2005年からの「実数発表」によって、ドームの空席は数字としても裏付けられました。
 巨人戦の視聴率低下は、ビデオリサーチが定期的に公表しているので隠しようもありません。再編騒動以降、ゴールデンタイムの「目玉商品」であった巨人戦の中継は、いまやTV局にとって「お荷物」扱いになっています。
 巨人戦の低視聴率に関して、球団を保有する読売新聞や主催試合をいまでもほぼ独占中継する日本テレビは、いやそればかりではなく、他球団の主催試合を生中継する他のTV局も、さまざまな「言い訳」を用意してきました。
 いわく、プロ野球人気、巨人軍人気が構造的に低迷しているのではなく、たまたまこの時期の巨人軍の成績が低迷しているからだ、などというものです。
 しかしです。先に記事にあるとおり、4月の巨人戦の「過去最低の視聴率」は、こうした言い訳を吹き飛ばしてしまいました。巨人軍は4月、圧倒的な強さでリーグの首位に立っており、「好成績が視聴率に結びつかない結果になっている」からです。
 多くの日本人はもはやプロ野球、なかでも読売巨人軍だけを特別扱いしなくなったのです。縄のれんのある飲み屋のTVでは常に巨人戦の中継が流れ、客たち は巨人戦をさかなに酒を飲む。サラリーマンが帰宅した家庭では、父親が巨人戦を見ながらビールを飲む。そんな光景はとっくの昔に終わっていたのです。
 読売巨人軍とTVの巨人戦中継だけが特別扱いされる。そうした時代は終わったのです。「神話」はすでに崩壊してしまったのです。神話崩壊の事実を認めた 上で再出発するのか、そうでないのか。神話崩壊を認める選択からしか、プロ野球の再生はあり得ないでしょう。(2006年5月3日記)

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