執筆者:成田 好三【萬版報通信員】

教育には、国家による国民に対する「宣伝」という機能がある。冷戦時代、東西両陣営は、互いに相手陣営を理解するのではなく、相手陣営を批判(非難)する教育を行っていた。その結果、教育を受ければ受けるほど、両陣営の国民は相手陣営の国民に対し、嫌悪感と悪感情を抱くようになる。教育はまた、残念ながら「洗脳」という機能ももっている。

週末ごとに中国の各都市で頻発する反日デモ(暴動)のTV映像を見ていて、NHK・BSで4月に放送された海外ドキュメンタリー番組の一場面を思い出した。中国のある幼稚園に1年以上もカメラを据え付けて、園児を観察し続けた番組だ。

この番組では、園児の日常生活を切り取る本筋とは別に、時折、子どもたちへのインタビューの場面を挿入していた。その中で、中国人の日本人に対する感情を浮かび上がらせたものがあった。

インタビュアーの、「日本人は嫌いなの?」「何故きらいなの?」といった質問に、園児は「嫌い」「日本人は中国人を殴るから」「日本人は中国人に悪いことをしたから」などと答えていた。「日本人を見たことはある?」「日本人に殴られた場面を見たことはある?」などの質問への答えは、いずれも「ない」だった。

NHKのホームページで確認したところ、このドキュメンタリー番組は、「中国 幼稚園の子どもたち」(2003年、中国制作)だった。広州国際ドキュメンタリーフェスティバルでグランプリを受賞した秀作だ。

中国人の反日感情の背景には、中国共産党が体制維持のために行ってきた愛国教育がある。中国の愛国教育は、まだ公式な教育を受けていない幼稚園児にも刷り込まれている現実を、この番組は如実に示していた。まだ3、4歳の子どもたちは、家庭や隣近所との交流の中で、まるで空気のように反日感情を育んでいる。

日本でもいま、文部科学省と自民党の文教族議員が中心となって、日本流の愛国教育を推し進めようとしている。互いに偏狭なナショナリズムを鼓舞する中国と日本の愛国教育がぶつかり合う。韓国でも、「竹島(独島)問題」を契機に反日感情が急激に高まってきている。

現代文明の中心軸は、欧州から米国へ、そして東アジア(インドなど南アジアも)へ移行しようとしている。そうした潮流の中で、愛国教育によって日本、中国、韓国の国民が反目し合う。そうなれば、利益を得るのは米国と欧州だ。彼らは植民地主義時代から一貫して、その国の国民を「分断統治」することによって、アジアやアフリカの国々を支配してきた。

最も成功したとされるイギリスのインド統治もそうだった。イラクの混乱も、根本原因はイギリスとフランスが多数派であるシーア派ではなく少数派であるスンニ派をイラクの支配階級に仕立て上げたことにある。

21世紀文明の中心軸になるはずの東アジアを構成する主要3カ国がそれぞれの愛国教育によって互いに反目し合うことは、大きな危険性をはらんでいる。米国や欧州が、自らの手を汚さずに巨大な可能性をもつこの地域を分断統治できることにつながるからだ。(2004年4月19日記)
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