執筆者:成田 好三【萬版報通信員】

今年1月の近鉄球団の命名権売却問題に端を発し、近鉄・オリックス両球団の合併問題、合併凍結を求める選手会のスト、スト回避をめぐる労使交渉、選手会の勝利に終わった交渉結果を受けての新規参入に名乗りを挙げたIT企業2社に対する参入審査――。

猫も目のようにめまぐるしく動いてきたプロ野球再編問題は、日本プロ野球組織(NPB)による、ライブドア、楽天に対する参入審査の段階に移り、一応の方向性が見えたかのようだった。

そんな時期に、球界に2つの「激震」が走った。ダイエー球団の親会社である巨大スーパー・ダイエー本社が自主再建を断念し、公的機関である産業再生機構への支援要請を決定した。さらに、西部球団オーナーである堤義明氏(西武鉄道グループ総帥)が、西武鉄道の有価証券申告書に記載したコクド保有株の過少申告の責任を取るとして、グループ全役職の辞任を表明した。ともに9月13日の出来事だった。

ダイエー本社の再生機構への支援要請は、1リーグ化を推し進めてきた渡辺恒雄・読売巨人軍前オーナー、宮内義彦・オリックス球団オーナー、堤氏にとっては、遅すぎた決断だった。再生機構への支援要請を前提にして、ダイエー球団とロッテ球団の合併を目論んでいた彼らにとっては、自主再建をめざして金融庁とUFJなど主力3銀行と大立ち回りを演じた末の、ダイエー本社の高木邦夫社長の決断は、あまりに遅すぎた。

しかし、国家管理体制に入ったダイエー本社が、来季の開幕時点はともかく、将来にわたってダイエー球団を保有し続けることは、あり得ない。実質的に破綻した企業が、赤字の球団を保有し続けることなど、許されるはずはない。球界再編の1つ目の「時限爆弾」は、カウントダウンの段階に入った。

堤氏の全役職辞任(西武球団オーナーは日本シリーズ終了後)は2つ目の巨大な時限爆弾である。西武鉄道グループが西武球団を保有(実際には西武鉄道の親会社であるコクドが保有)する理由は、既になくなっている。近鉄本社が近鉄球団を保有する理由がなくなったのと同様である。

私鉄会社が沿線開発と鉄道利用客の増大を目論んで球団を保有する戦略は、既に過去のものになった。しかも、西武鉄道の株は、堤氏の全役職辞任の理由となった有価証券報告書の過小申告により、東証の「管理ポスト」に移っている。仮に上場廃止となった場合、西武鉄道グループの経営は致命的打撃を受けることになる。東証の調査などによって、非上場企業であるコクドを親会社とし、上場企業を含む多数のグループ企業を支配する堤氏の経営実態に法的なメスが入れば、影響はさらに拡大する。

西武鉄道グループの西武球団保有の理由は、既に西武鉄道ではなく、堤氏自身のためのものになっている。JOC初代会長を務めるなど日本アマスポーツ界の「ドン」であった堤氏が、プロスポーツ界に橋頭堡を築こうとして買い取ったのが西武球団である。その堤氏がJOC名誉会長などアマスポーツ界の役職の辞任も申し出る。長野五輪誘致をはじめ堤氏頼りで運営してきたアマスポーツ界は、懸命に辞任撤回を求めるだろう。

仮に堤氏が慰留に応じたとしても、アマスポーツ界における堤氏の絶対的な地位は、今回の辞任表明によって大きく変化することは間違いない。堤氏自身に西武球団を保有する理由がなくなってしまえば、西武球団を解散するか、売却するか、あるいは近鉄球団のように合併するしか、選択肢はなくなる。

球界再編の動きは、現在行われている新規参入審査、その結果としてライブドアか楽天の、来季からの参入球団決定によって終わるものではない。近鉄の命名権問題から1リーグ化による球団縮小への動き、その揺り戻しとなった新規参入へと至る動きは、球界再編の前ぶれでしかない。ダイエーの再生機構への支援要請と、堤氏の全役職辞任という2つの時限爆弾を抱え込んだ野球界には、今後さらに強烈な激震が走るだろう。

それは当然のことである。戦後50年以上も「国民的人気スポーツ」という特権的な地位にあぐらをかいてきた球界は、時代に対応せず変化を拒んできた。球界の大きなひずみは、1球団の新規参入などで解消できるようなものではない。

何ごとでも、変化は徐々にゆっくりとしたペースでは起こらない。変化はいつも、ダムの堰が一瞬にして崩れるように、そして地震がそうであるように、溜まりに溜まったエネルギーが爆発的に噴出する形で起きるものである。(2004年10月16日記)
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