執筆者:中澤 英雄【東京大学教授(ドイツ文学)】

民主党の大統領候補者ケリーは、エール大学在学中に「スカル・アンド・ボーンズ」(SkullandBones頭蓋骨と肢骨。以下ではS&Bと略記)に入っていた。
S&Bは、ドイツの学生クラブをモデルに、1832年にアメリカの名門大学エール大学に作られた秘密の学生クラブで、「毎年4年生の中から最も優秀な15人が選出されその会員となる」と言われている。ブッシュ大統領も、その父も祖父もS&Bのメンバーであった。ブッシュはどう見ても優秀な学生ではなかったから、優秀な学生だけではなく、名家や有力者の子弟も入れるようである。
筆者は見ていないが、最近、日本のテレビでもこの秘密組織について報道された。
http://bbs1.com.nifty.com/mes/cf_wrentC_m/FTV_B001/wr_type=C/wr_page=2/wr_sq=04011412553607067241
筆者がこの組織の存在を最初に知ったのは、トム・ハートマンの「民主主義が破綻するとき――歴史の警告」という論説によってであった。これを読み進めていくうちに、読者は「国のリーダーを自認する男」が誰であるかを知って驚くであろう。
http://www.ribbon-project.jp/SR-shiryou/shiryou-14.htm
秘密結社ということで、S&Bは陰謀論者の想像力をかき立ててきた。インターネット上にはそういう情報があふれている。どこまでが真実でどこからが想像なのか、判定は難しい。
B級スリラー映画『ザ・スカルズ』はS&Bを材料にした映画である。

この映画は2000年、つまりブッシュが大統領になった年に制作された。映画としては失敗作であるし、それまでS&Bについて噂されてきた以上の情報は含んでいないが、こういう映画が作られたということ自体が、ある種の変化を示している。
2003年9月、自分自身もエール大学で別の秘密学生クラブに属していた女性ジャーナリスト、アレクサンドラ・ロビンスは、『墓の秘密』という、S&Bに関するレポートを発表した。これは、ロビンスが出版社からの依頼を受けて、メンバーへのインタビューも行なって書いた本である。ただしこの本には、メンバーの名前(インタビューされた人はすべて匿名)や、彼らが具体的にどのような政治的決定を行なってきたのかという、真に知りたい核心部分が欠けているとのことである。そのため、この本自体が、S&Bの「ダメージ・コントロール」のために、漏らしてもかまわない程度の情報を漏らしただけの本、という批判もある。

筆者はこの本を注文したが、まだ入手できていない。読んだあとで、何らかのコメントをしたい。
『墓の秘密』が発売されてから1ヶ月後、昨年10月にCBSが人気番組「60Minutes」で、ロビンスと、やはりS&Bに詳しい作家ローゼンバウムにインタビューしながらS&Bについて報じた。(上述の日本の番組をこれを元にしているのであろう)
http://www.cbsnews.com/stories/2003/10/02/60minutes/main576332.shtml
「ジャネット・ジャクソン事件とムーブオン」でも触れたように、CBSがアメリカのエスタブリッシュメントの利益を守るテレビであることを考えると、この番組も、S&Bとはこういう組織か、とわかった気にさせて、それ以上は踏み込まなくさせるという「ダメージ・コントロール」である可能性が高い。
ともかく、ロビンスの本やCBSの放送でわかった範囲では、この組織には、奇妙な入会の儀式があり、いったんメンバーに加わった以上、その組織については永遠に沈黙を守ることが要求され、卒業後もメンバーの間には強い結びつきがあるということである。ボーンズマン(S&Bのメンバー)は、アメリカの政治、経済、法曹、メディア界のトップの座を占め、隠然とした影響力を行使していると言われている。とくにCIAはボーンズマンの影響が大きいという。
ボーンズマンであったブッシュ父はCIA長官であった。ブッシュ大統領は5人のボーンズマンを自分の内閣に入れている。
Wikipediaによると、インターネット上で出回っているS&Bの名簿リストなるものは真実かどうかの確証はないという。ローゼンバウムが隠し撮りしたというS&Bの儀式のビデオも、本ものかどうかわからないという。
http://en.wikipedia.org/wiki/Skull_and_Bones
ただし、Wikipediaの記述自体が「ダメージ・コントロール」である可能性もある。
S&Bの周囲には何重にも厚いカーテンがかかっている。
エール大学でブッシュの2年先輩のケリーもボーンズマンである。MSNBCテレビの「ミート・ザ・プレス」のインタビューで、彼は自分がボーンズマンであることを認めたが、それは大統領選では重要なことではない、とはぐらかしている。
http://www.prisonplanet.com/010104kerryadmits.html
アメリカの社会学者ミルズは、アメリカ社会の政治権力は、彼が「パワー・エリート」と名づける、ごく少数者からなる集団に握られている、と述べた。ボーンズマンであるブッシュもケリーも、まさにパワー・エリートの一員である。大統領がブッシュからケリーに代われば、政治のスタイルは多少変わるかもしれないが、パワー・エリートの利益が優先されることは何ら変わらないであろう。違いは、武力中心のアメリカの単独行動か、国連や他国を巻き込んだ、一見ソフトに見える国際協調路線か、という手法である。
結局、ブッシュ対ケリーの戦いは、パワー・エリート同士のwin-wingame(どっちに転んでも勝ち)ということになる。最近、消費者運動家のラルフ・ネーダーが無所属での立候補を表明したが、これは、パワー・エリートの権力たらい回しに対する不満の現われなのであろう。もちろん、ネーダーがパワー・エリートに勝てる可能性は皆無である。
中澤先生にメールは E-mail:naka@boz.c.u-tokyo.ac.jp