執筆者:中野 有【ブルッキングス研究所客員研究員】

ワシントンの古本市で、ケネディー上院議員が、1960年6月に出版した「平和への戦略」という本を見つけた。その中に、ケネディーの平和戦略12項目が11ページにわたり記されている。ケネディー暗殺後の本はたくさんあり、また1963年のアメリカン大学におけるケネディーの「平和戦略」のスピーチは有名であるが、この12項目はあまり知られてないと思う。

たまたま古書市で見つけたこの1ドルの本は、今まで巡り合った本の中でも1-2の価値有る本となった。ケネディーが43年前に問いかけた平和戦略は現在でも通用する。平和を達成するための明確なビジョンが、具体的なリーダーシップのもとに描かれている。

平和を語るためには幻想ではなく現実的に達成されるものでなくてはならない。

ケネディーの平和戦略の魅力は、世界観から宇宙観まで駆使し、外交、安全保障を地域戦略を通じ具体的に展望し、大統領当選後の、行動指針を述べているところにある。これこそ、21世紀の現在が必要とするビジョンであると強烈な印象を受けた。そこで、そのエッセンスを以下まとめてみる。核問題 奇襲攻撃を防ぐ核の抑止力通常兵器 陸海空の軍事力の強化NATOの強化 ヨーロッパ諸国との政治、軍事的強化開発援助 西ヨーロッパ諸国と日本との協力で途上国支援南米の民主化 ドル外交批判と近隣諸国との友好政策中東戦略 イスラエル国家の承認と柔軟なアラブへの姿勢 体制より人の交流アフリカ問題 共産主義排除によるよる民主化と繁栄 多国間経済開発資金ベルリンの壁とヨーロッパへの対応東欧の問題中国政策と共産主義封じ込め アジア地域開発機構国連の役割強化 国際紛争解決と国際法宇宙開発 世界に冠たるアメリカケネディーは、現実主義と理想主義を組み合わせ、軍事的、経済的に最強のアメリカを最高の教育と科学技術を通じ達成する戦略をわかり易く、国民参加の参加を基本として描いている。

軍事と開発は、コインの表裏であり、平和のためにはその2つの要素のどちらが欠けてもいけない。米国の1ドル紙幣にはタカが描かれ、左脚には戦争を意味する矢、右脚には平和の象徴であるオリーブの枝が描かれている。このケネディーの本の表紙にもこのタカのシンボルが描かれており、まさにこのオリーブの木と矢がアメリカの平和戦略そのものである。

ケネディーの平和戦略で特筆すべきは、核から経済協力や多国間協力の重要性が描かれているのみならず、真実の平和を追求するために宇宙開発まで視野にいれている。ソ連との核競争も究極的な軍縮のために受け入れると同時に、世界が共有できる宇宙開発まで展望しているところにある。

6月13日にブルッキングス研究所のセミナーで、北東アジア構想について発表する予定である。今、北朝鮮問題という局地問題でありながら核兵器というへ戦争に直結する問題への対応で世界に求められているのは、ケネディーの平和戦略の北東アジア版であろう。世界戦略という大きな構想の中での明確な青写真作成の作業であろう。そこで、ブルッキングス研究所での講演では、「北東アジアの平和戦略 12項目」を発表しようと考えている。協調的安全保障 経済協力を主眼予防外交 朝鮮半島では戦争というオプションを排除北東アジア経済圏と共生圏 資本主義を凌駕する東洋思想による経済圏構築柔軟性のある歴史的認識と互恵精神 この百余年の歴史を重宝北東アジアの国境を越えた国際公共財の構築 空間開発計画エネルギー安全保障 北東アジア天然ガスパイプライン構想北東アジア国際交通網 ヨーロッパと太平洋を結ぶ21世紀の問題に対応する新たな国際機関を設立、東アジア経済社会開発機構日米同盟、米韓同盟と北東アジアの多国間協力東洋思想と多神教 東洋と西洋の価値観対話、建設的関与、協力による地域の安定と発展多国間進歩的建設的関与政策 国際社会と北朝鮮の相互依存日本発で伝わる北朝鮮政策は、対話と圧力という考えである。しかし、現実には対北朝鮮政策が強硬派と建設的関与派に分離しているように感ぜられる。金体制の核の瀬戸際外交に対し、国際協調による妥協せぬ姿勢を示すことが重要である。経済制裁は必要であろう。しかし、経済制裁は、短期的なものであり、根本的には多国間協力による進歩的な政策、すなわち北東アジア平和戦略が平和への布石となろう。アメとムチを適度にミックスさせた平和戦略を考慮し、それを具現化する作業が求められている。