ダボスを喰らうヴェロキラプトル
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
ニューヨークでちょうどダボス会議が開催されている時、ドイツでは映画「ジュラシックパーク」でその凶暴ぶりを発揮した「ヴェロキラプトル」が、仲間と共に出現し、世界を再び恐怖に陥れる。
▼ヴェロキラプトル・プロフィール
http://www.dino-nakasato.org/jp/special97/Velo-j.html
属・種名 :ヴェロキラプトル・モンゴリエンシス
Velociraptormongoliensis
属名の意味:すばしっこいどろぼう
分類 :獣脚亜目デイノニコサウルス下目ドロマエオサウルス科
時代 :白亜紀後期
産地 :南ゴビ ツグリキン・シレ
全長 :1.5m
▼ヴェロキラプトル・参考図
http://www.rakuten.co.jp/discstation/img102289601.jpeg
■「ヴェロキラプトル」ミュンヘン出現
ミュンヘンで2月1日から3日間の日程で開催された第38回安全保障国際会議は、ミニダボスと呼ばれている。そして今年の会議は、恐竜の出現により「ジュラシックパーク」と化したようだ。
かっての同僚から、すばしっこいどろぼうを意味する「ヴェロキラプトル」と名付けられたポール・ウルフォウィッツ国防副長官は、ブッシュ政権きってのタカ派と呼ばれるだけあって、連日強硬発言を繰り返す。ブッシュ大統領が、一般教書演説でイラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸」と名指ししたことに言及し、「大統領は問題がどこに存在するか明らかにした」と指摘した上で「攻撃は最大の防御である」と先制攻撃も辞さない考えを示す。また「攻撃されたのは我々自身であり、我々を守るための行動は正当化される。そして米国単独でもテロと戦うであろう。」と述べる。
共和党の実力者、ジョン・マケイン上院議員も「国際社会の次の前線はイラクだ」とし、「イラクではテロリストが政権を握っている。たとえアフガニスタンにおける軍事作戦よりも犠牲者が出ようとも、米国は次の段階でのテロとの戦いでは地上戦を覚悟しなければならない。」と語る。
リチャード・パール国防政策委員会委員長(ラムズフェルド米国防長官の諮問機関)もウルフォウィッツ国防副長官に同調し、「米国は自己防衛のためには国際的な連合を必要としない。時が来たら単独でも行動することをいとわない。」と発言する。
相次ぐ恐竜達の発言に対し、左派が大勢を占める欧州側は防戦一方となり不満の声が上がる。暴走する恐竜達をなんとかくい止めようと世界中からおよそ5000人の反戦・反グローバル化の活動家達も集結するが、堅い警備の前に約300人の身柄が拘束される事態となった。
■肉食恐竜の巣窟
肉食恐竜達は、意外にもせっせと手紙を書く習性を併せ持つ。「新しいアメリカの世紀のためのプロジェクト」にこぞって集まり、1998年1月には当時のクリントン大統領あてにイラク政策を批判した手紙を送る。この中で「将来の脅威に備え、フセイン大統領を権力から排除すべきだ」と要求している。
この手紙には合計18名の署名が記載されている。ウルフォウィッツ国防副長
官、パール国防政策委員会委員長、そしてラムズフェルド国防長官、ゼーリック通商代表、「ショー・ザ・フラッグ」のアーミテージ国務副長官、京都議定書問題も担当するドブリアンスキー国務次官(地球規模問題担当)、ロッドマン国際安全保障問題担当国防次官補、シュナイダー国防技術委員会委員長(ラムズフェルド米国防長官の諮問機関)、そしてタカ派で知られる『ウィークリースタンダード』誌編集長ウィリアム・クリストル(「新世紀」会長)等18名である。
そして忘れてはならないのは、ザルメイ・カリルザドが署名している点である。ブッシュ政権は、ランド研究所の上級研究員であったアフガニスタン生まれのカリルザドを国家安全保障会議(NSC)上級部長兼イラク政策担当特別補佐官に起用し、さらに昨年12月31日付でアフガニスタンの復興問題を担当する大統領特使に任命した。
カリルザドは、1990年代のアフガニスタンを舞台に繰り広げられた石油・天然ガス資源を巡るグレート・ゲームで主役を演じた米独立系石油・ガス大手ユノカルのアナリスト兼アドバイザーを務めていた。そしてカリルザドと同様、この時期にユノカルのアドバイザーを務めた人物が、キッシンジャー元国務長官とおしゃれなアフガニスタン暫定行政機構のカルザイ議長(首相)である。
なお最近では昨年12月6日にもブッシュ大統領あてにフセイン大統領を排除すべきとの手紙を再度送りつけた。これには、マケイン上院議員、民主党のジョセフ・リーバーマン上院議員(元副大統領候補)、ジェシー・ヘルムズ上院議員、トレント・ロット上院議員、ヘンリー・ハイド下院議員等、血の気の多い有力議員9名が署名している。
つまり1991年の湾岸戦争の際に、ひと思いにフセインを倒しておけばよかったと悔しがる連中が熱く手紙を書き、そして今やそのメンバーのほとんどがブッシュ政権中枢に集められているのである。従って「ジュラシックパーク政権」と呼ぶこともできる。
■期待裏切るパウエル国務長官
1991年の湾岸戦争の時、パウエル・ドクトリンに基づいてバグダッドまで進軍しないよう提言したのは、当時統合参謀本部議長だったコリン・パウエル国務長官である。欧州勢からすると唯一の国際協調派と見られており、それを象徴するかのようにニューヨークで行われたダボス会議の方に出席する。
このダボス会議では、ブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言に対して、「米国は結局、同時テロの後もユニラテラリズム(アメリカ単独主導主義)を変えていない」と欧州やロシアからの参加者が批判の声を高める。これに対してパウエル国務長官とオニール財務長官は、貧困国対策を打ち出すなど協調的な姿勢を示した。
ところが、この直後からパウエル国務長官は、ウルフォウィッツ国防副長官が乗り移ったかのように肉食恐竜に大変身するのである。
2月3日の米テレビ番組で、イラクなどに対し「米国は先制攻撃の権利を留保する。米国と同盟国を守るため何でも行う」と明言し、2月6日に行われた下院公聴会でイラクの政権交代に向け「米国は一国でも行動しなくてはならないかもしれない」と述べ、単独による対イラク軍事行動があり得るとの考えを示す。
「ヴェロキラプトル」の脅しに屈したのか、それとも米メディア各社からの「もっとニュースを!」に応えただけだろうか?
■先制攻撃はいつ?
あまり知られていないが、今年2月4日、哨戒飛行をしていた米英軍機がイラク北部の防空システムを爆撃している。実は、昨年も米英共同でちょくちょくイラクを爆撃していたのである。
米英当局が認めたものだけでも、2001年の空爆は合計8回を数える。
2月16日 合計24機の米英爆撃機が、首都バグダッド近郊の対空レーダ
ー基地など5カ所の司令・防空施設を空爆。
8月 7日 イラク北部の防空施設を偵察中の米英軍機が空爆
8月10日 米英攻撃機と支援機合わせて50機を投入し、イラク南部の防
空施設3カ所を空爆。
9月 9日 米英軍機が、イラク南部の対空ミサイル施設3カ所を空爆。
9月18日 英戦闘機が、イラク南部の地対空ミサイル基地を攻撃。
9月20日 米英戦闘機が、イラク南部の対空防衛施設を空爆。
10月 2日 2日、3日の連日、米英の爆撃機が、イラク南部の対空ミサイ
ル施設2カ所を空爆。
9月18日の攻撃について、ラムズフェルド国防長官は、「通常通りの行動であり、対米同時多発テロ攻撃とは関連性がない」とコメントしているが、何が通常なのか理解に苦しむのである。またこうして並べて見ると先制攻撃なるものの定義付けにいささか疑問を感じてしまう。
それにしても、表面的にはEUを装いながら、常に米国と行動を共にするイギリスが新たな「ジュラシックパーク」のシナリオを書いているようだ。
■「生きた化石」
日本というなわばりを取り仕切るアーミテージ国務副長官は、2月14日、北朝鮮の脅威を念頭に「(悪の枢軸発言は)日本からも感謝されていい話だ。理由があって大統領は言っている。」とし、「米国は何が起こっているか理解しながら取り組んでいる。(悪の枢軸3カ国は)大量破壊兵器の保有や開発をし、テロを行い、北朝鮮には日本人拉致疑惑もある。」と述べる。
ブッシュ大統領訪日直前のアーミテージ国務副長官発言は、日本人拉致疑惑を取り上げるなど行き届いた配慮を示し、日本国内のタカ派を十分に刺激したようだ。
最近では「ノン-パフォーミング・カントリー」などとまるで「生きた化石」のように言われる日本であるが、私としては、訳もわからず「グレート・サタン」と「悪の枢軸」の戦いにおつきあいするぐらいなら、「生きた化石」も喜んで受け入れたい。
どちらが滅んだかは、子供でも知っている。
▼参考・引用
●週刊エコノミスト2001年10月23日号
「対イスラム強硬派とパウエル氏の対立」中井良則
●PaulWolfowitz,velociraptor
http://www.economist.com/people/PrinterFriendly.cfm?Story_ID=976036
●Washington’shawktrainssightsonIraq
http://www.guardian.co.uk/waronterror/story/0,1361,558276,00.html
●ProjectfortheNewAmericanCentury
http://www.newamericancentury.org/index.html
・LettertoPresidentClintononIraq
http://www.newamericancentury.org/iraqclintonletter.htm
・CongressionalLetteronIraq
http://www.newamericancentury.org/congress-120601.htm
●Thenon-performingcountry
http://www.economist.com/agenda/PrinterFriendly.cfm?Story_ID=996898
●GreatSatanvaxisofevil
http://www.economist.com/agenda/PrinterFriendly.cfm?Story_ID=974649
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