執筆者:中野 有【米東西センター北東アジア経済フォーラム上級研究員】

鉄腕アトムの誕生の日は、2003年4月7日である。

半世紀前に手塚治虫氏が、もう間近に迫ったこの日を「アトム生誕の日」として設定した思いには、どのような「夢とロマンのメッセージ」が隠されているのであろうか。未来の国の出来事が、過去となる日がそう遠くないのである。

元来、日本が得意とする分野は、工作機械等のロボティックスであったのに、情報産業が世界を席巻し、高度なモノづくりであるロボット産業の魅力を忘れてしまったようである。IT(情報技術)のブームの次に脚光を浴び、日本の不況脱出の先導役となるのがRT(ロボット技術)になるだろうとの予感がする。

グローバルな潮流の中で、国際水平分業によるアジアにおける産業構造の再編が進展している。中国の台頭により、相対的に日本の競争力が低下し、日本の産業の空洞化に拍車がかかり、失業率の上昇により閉塞感が漂い、社会的不安が蔓延している。そうは言っても中国の発展はアジアの地位向上にとってプラスである。

中国という安価で優秀な労働力を供給し、急速な経済成長を達成する国に対して日本が力を発揮できるのは、ロボット産業ではないだろうか。

資源小国でありながら、巨額の金融資産を有し、モノづくりを得意とし、「山紫水明」という地球のオアシスである自然美を持つ日本にとって、環境に優しく、付加価値が高いロボット産業こそ日本の英知を結集するにふさわしい分野だと考えられる。

いつの世も不況脱出のキーは、イノベーションである。ITという情報の技術革新は、グローバル化の推進とアメリカの復権に寄与した。

ただ、ITはEメールやインターネットを通じ、人々をわくわくさせる情報技術を提供してくれたが、コンピューターの画面に映る情報だけでは人々は満足することができない。ITは情報の満足感を提供してくれても、掃除や洗濯等の日常生活の向上につながるものではない。

そこで、日常生活に役立つロボットが身近に存在すれば、どれほど便利で生活が豊かになることだろう。生活分野の需要からか、ここ数年歩行するロボットや感情表現が可能なロボットの開発が進められている。

手塚氏は、人間が持つ戦争や競争という闘争本能とは対極的な「こころ」を持つロボット「鉄腕アトム」を描いた。人間の邪悪を取り除いた人間の理想をアトムに託した。このメッセージには、ロボットが戦争に悪用されないことへの希望が含まれている。

きっと手塚氏は、現在の日本の閉塞感を打破し、日本が再び「モノづくりの横綱」として世界に君臨する事を願って、未来の日本のあり方にヒントを与えるために2003年4月を日本の大躍進の日として設定したのであろう。ロボット技術(RT)を基盤に日本の姿を考えてみると、不安、不確実性が吹っ飛び、日本の明るい未来が見えてくる。

技術革新のためには、投資が必要である。その投資を考えるとき、発想の転換も大切であろう。例えば、日本は世界一の財政赤字を抱える国でありながら、1400兆円という天文学的数字の金融資産を持つ国でもある。単純に1400兆円に2%の利率をつければ、国債に等しい30兆円が生み出される。この利子だけで国債が成り立つ国だということを念頭に入れ(暗示をかけ)、人類に夢とロマンを与えるロボット技術に傾倒すれば、ITに続くイノベーションとして新生日本が目指すべきビジョンが明確になるのではないだろうか。

ロボット技術が地球益にいかに貢献できるかということを問いかけてみたい。例えば復興支援の一環である地雷の撤去等にロボット技術が適応されれば、ロボットの平和利用のさきがけになるだろう。

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