ビッグ・リンカー達の宴(うたげ)-5
執筆者:園田 義明【萬晩報通信員】
■金融界のピカソ、アンドレ・マイヤー
20世紀を代表するインベストメント・バンカーのひとりアンドレ・マイヤーもパリで生まれたユダヤ人である。キャサリン・グラハムの高貴なマイヤー家とは関係がなく、貧しい家庭で育ったようだ。パリの小さな銀行で認められ1925年パリのラザール・フレールに入社、すぐにパートナーに迎え入れられる。
しかし、第二次世界大戦が勃発し、ナチに追われてアメリカへと向かう。そしてニューヨークのラザード・フレールで再びオペレーションを開始する。彼は、シトロエン、エイビス、ホリディ・イン、ワーナー・ランバート、エンゲルハート・ミネラルズ&ケミカルズ等を一流企業に育て上げ、不動産分野でも大きな実績を残す。
とりわけ当時を代表する政治家や財界人のプライベイト・アドバイザーとして現在のラザードの基礎となる人脈を築き上げた。キャサリン・グラハム、ケネディ家、リンドン・ベン・ジョンソン大統領、三大ネットワークのひとつCBS会長を長く務め、メディア界のゴッドファザーと言われたウィリアム・ペイリー等の厚い信頼を得ていた。
そして、ロックフェラーグループの代表を務めるデビッド・ロックフェラーチェース・マンハッタン・バンク元会長とイタリアのフィアットグループのアニェリ家を育て上げたのもアンドレ・マイヤーである。デビッド・ロックフェラーは、彼のことを最も創造的な金融の天才と呼んでいた。
『三人の女』『アリス・B・トクラスの自伝─わたしがパリで会った天才たち』などで知られるペンシルバニア州出身の女流作家ガートルード・スタインは、パリに渡り、当時まだ無名であったピカソと親交を深めるが、彼女の死後残されたピカソ・コレクションを購入したのは、アンドレ・マイヤー、ネルソンとデビッドのふたりのロックフェラー、ウィリアム・ペイリーとインターナショナル・ヘラルド・トリビューン誌の社主であり、駐英大使を務めたジョン・ヘイ・ホウィットニーの5人からなるコンソーシアムであった。
アンドレ・マイヤーは1979年に亡くなるが、その時には新たな金融界のスターが誕生していた。
■フェリックス・ロハティン
合衆国移民の象徴とされている自由の女神の台座には、「あなたの国の貧困や疲労で息苦しい人たちを私のところに連れてきなさい。私は黄金の扉のそばでランプを掲げています」という有名な詩が刻まれている。女流詩人エマ・ラザルスのものである。
今年5月17日、このニューヨークのピエール・ホテルで華やかなパーティーが開催される。アメリカン・ジューイッシュ・ヒストリカル・ソサエティー主催のこの宴に登場したのが、ラザード・フレールのマネージング・ディレクターであったフェリックス・ロハティンである。
この時、ロハテンはユダヤ人であったエマ・ラザルスの名を冠したエマ・ラザルス賞を授かる。アメリカのユダヤ人社会の発展に貢献した人物に与えられる賞で、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティーも資金提供している。
これまでユダヤ歴史家アブラム・L・サッチャー(1986)、オキシデンタル・ペトロリアム元会長アーマンド・ハマー(1987)、現在ビベンディ・ユニバーサルとなったシーグラムのエドガー・ブロンフマン元会長(1989)、フィギュアで知られる玩具大手ハスブロを支配するシルビア・ハッセンフェルド元会長(1994)、アウトドアウェアの最高峰フリース「ポーラテック」で知られるマルデン(モールデン)・ミルズのアーロン・フュウスタインCEO(1996)、世界的なオペラ歌手ビバリー・シルズ(1998)、ヘンリー・キッシンジャー元国務長官(1999)、シティグループのサンフォード・ I ・ワイルCEO(2000)が受賞している。
★メモ--マルデン(モールデン)・ミルズのフュウスタインCEOについて
なおここでマルデンミルズのアーロン・フュウスタインCEOについて少し触れておきたい。現在フリースウェアと言えばユニクロを想像する方がほとんどであろう。努力の跡は見られるもののやはりポーラテックとは、比較にならない。アウトドア・ブランドで知られるパタゴニアが実証してきた品質は、愛用する方なら理解できると思う。
ニューヨーク市立大学の霍見芳浩教授の「苦言直諌」をご紹介したい。
http://www.mediajapan.com/ocsnews/96back/575b/575/575kugen.html
『「模範とすべき米企業のトップは」と尋ねられると、私はためらわずに、マルデンミルズ社のアーロン・フュウスタイン社長、七二歳だと答える。みんなきょとんとするが、同社が世界一のシェアを持つ「ポーラテック」というスキーウエアなどの耐寒と耐水の魔法の布地をあげると、なるほどとうなずく者もいる。しかし大半は、若くして世界一の起業家となり、パソコンの基本ソフトの「ウインドウズ95」で知られるマイクロソフト社のビル・ゲイツなのでは、という顔をする』
『そこで、マルデンミルズ社がなぜ米国第一の品格かの説明をする。九五年のクリスマス直前に自社工場が全焼した時、フュウスタイン社長は失業の不安におののく全社員の前に進み出て、工場再建まで全員の賃金は業界水準以上のまま全額保証するし、医療保険の掛け金もちゃんと払うと確約した。全社員が泣き出しただけではなく、取材中の海千山千のテレビ記者たちまで貰い泣きした。社員の大半が、ドミニカやプエルトリコからの貧しい移民だったのだ』
なおマルデン・ミルズは、古くからペットボトルや廃品プラスチックの再生にも取り組んである。(つづく)
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