執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

2週間前から萬晩報は「総選挙態勢」と名打っていささか前のめりになって連日「めるまが」を発刊し、ホームページを更新してきた。今週は1日に2通のメルマガが届くなど受ける立場からすれば「読み切れない」という不満もあったかもしれない。投票日まであと1日となった。

●復活兆しの政治討論

仕事が休みだった21日の夕方、NGOの地球市民会議(http://www.r-u.com/2000.html)がサポートする「合同個人演説会」に出掛け、候補者の主張の違いを聞きに行った。公示前に「公開政治討論会」と呼んでいたものが「合同個人演説会」となったのは、公選法によって「公示後は立候補者以外が主宰する演説会が禁止される」ためだ。筆者が住む東京5区は目黒区と世田谷南東部に当たる。

大きな会場に100人足らずの聴衆しかいなかった。21日の朝日新聞4面に開催の案内が出ていたにしてはあまりに少ないのに愕然とした。大マスコミの影響力はこの程度かという印象を抱く一方、有権者の選挙への意識の低さに落胆した。

日本を変える立場から自民党以外の、はっきりいえば民主党公認候補の値踏みに行った。だが候補者全員の6人が並び、それぞれが発言すると人間の優劣はただちに決まるものだという当たり前の事実に気付いた。聴衆のみなさんも同じような印象を抱いたに違いない。そのむかしは候補者全員が出席する「立会演説会」というものがあったが、ヤジや罵声による候補者への個人攻撃の場になりやすいということで禁止されてしまった。

おかげで有権者は候補者を比べてながめる機会を失った。仲間内で繰り広げられる個人演説会か街頭車からの連呼だけで候補者の優劣を判断するなどということは不可能だ。東京5区の「演説会」はたった100人足らずの会だったが、数百人を集めた会場もあったようだ。地球市民会議が提唱する公開政治討論会はとにかく300小選挙区の半分近くの選挙区で学生や主婦が立ち上がり、手づくりの討論会を復活させたのだから大したものだ。落胆の一方でそんな印象も抱いた。

●政治はうさん臭いか

個人的にはもうひとつ収穫があった。それまで立候補ポスターだけをみて「さえないやつだな」と小馬鹿にしていた自由党公認の「遠藤のぶひこ」という人物が6人の中で際だっていることを見出した。弁舌という点では先輩候補者に劣る面もあったが、政党の主張とは別に個人の主張を展開したのはこの候補者だけだった。月並みの言葉で言えば「自分の言葉で語る候補者」ということになる。

この時期、萬晩報に候補者の個人名を出すことに問題はないかという点で逡巡もあるが、「候補者のE氏」では迫力がない。このコラムは投票依頼でも推薦文でもないことを断っておく。

遠藤氏は郵政省の官僚出身の37歳。この2月妻にも相談せずに職を辞した。この日の演説で気に入った表現を紹介するとこんなことになる。

「政治はうさん臭いといわれてきた。でもみなさん立ち止まって政治を自分の人生と重ね合わせて考えてほしい」

「これまで多くの政治家の言葉を聞いてきたが、言葉が耳を通り過ぎていくんです」

「日本はこれまで集団にぶら下がってきた。これからは個人が選択して、チャレンジできる社会に変えていかなければならない」

「青臭いかもしれないが、政治家はこれから日本をどんな社会にしたいのか語らなければならない」

候補者個人名を出したのは「人は言葉で動かすことができる」という当たり前のチャンスが日本の選挙で失われていることを強調したかっただけである。合同個人演説会で、コーディネーターは発言の順番と発言時間に厳しすぎるほど平等主義に徹していたから、面白みにかける側面もあり、6人とも日本の安全保障についてまったくといっていいほど見識を持っていなかったという不満は残ったが、とにかく25日に投票する人物を自分だけの判断で決める機会を与えてくれたことに感謝したい。

●小林陽太郎外相、中坊公平大蔵大臣でどうか

話は全国区に移す。投票率が相当高くなるというのが大方の予想である。マスコミだけでなく、当の政党や選挙管理委員会の予測でも60%台後半を中心とした数値が出ている。「70%を超えると自公保が敗れる」という説がささやかれる中で、肝心の民主党は政権を「奪る」覚悟ができていないのではないかという不安がある。

筆者はいささか反自民的論調を展開してきたが、民主支持でもない。ただ日本に2大政党を定着させるために政権交代を期待しているだけだ。菅直人氏が「自民党は役所の番犬。私が自民党総裁になっても体質は変えられない」と言っているように官僚にフォーマットされた日本の政治を改革するためには政権交代しかない。そのためには多少の混乱には「目をつぶろう」と考えている。

それなのに肝心の民主党に政権構想がまったく見えてこない。ここまで投票率アップが見えてきた段階でシャドーキャビネットの主要閣僚名簿ぐらい発表したらどうかということである。例えば総理大臣・鳩山由紀夫、官房長官・菅直人、外務大臣・小林陽太郎富士ゼロックス会長、大蔵大臣・中坊公平。民間人を多用するのだ。

政治はひとである。政権の人物が見えることで政党の魅力は倍増すると思えるのだが。

サッチャー回顧録(日本経済新聞社)によるとサッチャー保守党党首は「政権についたら、まずなにをなすべきか分かっていた」そうだ。シャドーキャビネットがその日から始動したからだ。イギリスの産業競争力回復の議論は政権奪取の5年前に始まっていて、老土とも対決、国営企業の民営化、大規模な税制改革といった施策のスケジュールも決まっていた。2大政党制度が定着しているイギリスと口だけでさけんでいる日本との政治の違いである。

国民がワクワクすれば景気は回復する。萬晩報はずっとそのことを考えてきた。政権交代が実現すればもっと嬉しいが、期待を抱かせるだけでもワクワクするものである。明日の投開票が期待される。