執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

●予算規模を上回る来年度の借金
国会で来年度予算の審議が始まった。野党が街頭活動から国会に戻ってきたのを世の中では「正常化」といっているが、筆者はそうは思わない。少なくとも民主党は解散・総選挙まで国会に戻らないのかと思っていたから期待は大きく外れた。

12月19日から24日まで2000年度政府予算編成の取材に携わった。84兆9871億円を超える予算規模はもちろん史上最大規模である。借り換え債を含めた国債の発行額85兆8705億円で、一般会計の規模を初めて上回った。新規に増える分が32兆6100億円とはいえ、総予算を上回る国債の発行が尋常でないことは素人でも分かる。

小渕首相は「世界一の借金王」といい、自民党の亀井政調会長は「連立3党の主張が取り入れられたすばらしい予算案」と胸をはった。宮沢蔵相は「1%成長の政府目標を達成するために必要な措置はすべて盛り込んだ」と来年度こそは補正予算の助けを借りずに成長目標を維持できるとの見通しを明らかにした。強気である。

ところが堺屋経企庁長官の見方は違った。経済状況次第では追加的な景気刺激策が必要になると一人だけ正直な感想を漏らした。大部分の日本人が忘れているだろうが、実は1年前の予算編成でも宮沢蔵相は「初回から大魔人を投入したようなもの」と最大限の経費を盛り込んで「補正予算は必要ない」と言っていたのだった。

●補正がなかったらマイナスだった1999度

それなのに昨年秋には18兆円にも上る史上最大規模の景気対策の実施を余儀なくされた。このことは記憶に新しいだろう。民間経済が10%内外の飛び抜けた伸び率を示さない限り、宮沢蔵相の発言が2年連続のウソになることはほぼ間違いない。

昨年秋の追加予算のうち公共事業費は8兆円を超える。これはGDPの1.6%である。政府は今年度の成長率がプラスに転じると自身を深めているが、単純に補正がなかったらマイナス成長だったことを露呈したにすぎない。

地方の土建業者たちが消化不良を起こすほどの公共事業費を盛り込み、さらに秋に追加予算を組んだおかげでかろうじてプラス成長に転じる予定の日本経済が来年度は補正なしで景気回復するという根拠は見当たらない。

あの手この手の時限的な減税措置によるで無理やり国民に勧めてきた住宅着工にもそろそろ疲れが見えてきた。「今がマンションの買いだ」と信じ込まされてきた多くの市民は不動産を購入したとたんに評価額が購入価格を下回るという悲劇に直面している。

これ以上、国民をだまして景気を浮揚させる経済政策は通用しないというのが萬晩報の主張である。

●2万円台の東証の方がアメリカよりバブリーなわけ

いまの景気を下支えしているのは公共事業とアジア向け輸出であることは周知の事実である。日本の株価は情報通信関連が引っ張っているが、アメリカのように収益に裏打ちされたものではない。

税引き後の利益が70億ドル、80億ドルという企業が多く生まれているのがアメリカであり、NTTとトヨタ自動車以外にみるべき利益を上げていないのが日本の現実である。

東証株価平均が2万円台を回復したのはめでたいことなのだが、2万円といったところで1989年12月のピークの半分の水準でしかない上に、どちらがバブリーかと問われれば、東証の2万円台よりアメリカのダウ30種平均の1万ドル台に軍配を上げざるを得ない。

万が一にもないと思われるが、仮に日本経済がテイクオフすることになれば、ただちにインフレ経済に見舞われることになろう。長期にわたる超低金利政策の副作用が一気に日本経済を襲うことになるはずだ。

萬晩報の読者だけには、この史上最大規模の予算の意味するものと政治家たちの発言を覚えておいてほしいと思う。