執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

11月23日に引き続き、国債発行のルールを解説したい。

「国債発行の無意味なルールとルール違反(1)」の続きである。
(1)借金を収入と考える日本政府の一般会計予算

(2)禁じ手を合法化するため毎年制定される特例国債法

(3)境界線が見えない赤字国債と建設国債

(4)無尽蔵であり得ない国債発行

(5)大蔵省が繰り返す国債償還のルール違反

(6)国債依存度の無意味なパーセント
●無尽蔵であり得ない国債発行
小渕政権の1年半をみていると、この政権は無尽蔵に国債を発行できると考えているようだ。先ごろ鳩山由紀夫・民主党党首が国会で「あなたが首相に就任してからどれだけ国債を発行したか知っていますか。50兆円ですよ」と追及していた。
どんな国でも無尽蔵に国債発行できるはずはない。巨額の発行はまず金利上昇を伴い、景気に逆効果をもたらすと考えるのが普通である。ついであまりにも巨額の発行だと買ってくれる相手がいなくなることを心配しなければならなくなる。
逆にいままで買ってくれていた人が将来を心配して市場で売り浴びせるという不安もでてくるはずだ。最後に襲うのが通貨価値の下落とインフレである。
日本の民間銀行が危機に陥ったのはまさにこの3つの理由によるものだ。大手F銀行などは銀行間市場でその日の資金を調達できずに何回か”不渡り”寸前になったことがあるのだ。
ところがこの国では”不渡り”どころか資金調達難に陥ったという報道すらない。政府が発行する国債を日銀と郵便局の資金で買っていたからである。だからこれまでは金利上昇を心配することも買い手がいなくなることも心配する必要がなかった。
昨年秋、大蔵省が抵抗して宮沢蔵相に「財投資金での国債引き受けをやめる」と言わせ、長期金利が急カーブで上昇する局面があり、巨額の国債発行と金利上昇がトレードオフにあることがようやく世間で認知された。
だが結局、財政資金による国債引き受けをやめることはできなかった。ちなみに財政資金とは主に郵便貯金を運用しているところである。政府が発行する国債を国の機関が買っていたのだからもはや開いた口が塞がらない。
困り果てた大蔵省は次に何を考えたか。10年物の長期国債の発行が長期金利上昇につながるなら、5年物や3年物で発行したらどうだろうという発想にたどり着いた。だがこの発想も幼稚である。金利の世界で長期と中期がまったく別の世界であるはずがない。
とにかく今回の補正予算では7兆5000億円の国債の半分以上を5年物でまかなう方針である。
いまの金利が5年後も続くとは考えられないから、金利上昇の先送り策ともいえる。なぜなら5年後にまた借り換えを必要だからだ。何遍も言ってきたがこの国は国債の元本を返済したことがない。
●大蔵省が繰り返す国債償還のルール違反
償還ルールについて書こうとしているうちに横道にずれた。国債発行の基本的ルールはまず「毎年予算編成時に国債発行残高の60分の1を国債整理基金に繰り入れる」ことが求められている。今年度だと年度末の残高がほぼ300兆円だから5兆円を繰り入れる必要があった。しかし今回も財政難を理由に見送られている。
もうひとつのルールは「剰余金が出た場合、半分は国債の償還に充てなければならない」ということだ。最近は剰余金など出るはずもないのだが、1980年代後半に、NTTの株式を売り出した時、予想外の高値で売れたため、2年間で7兆円近くに剰余金が生まれた。しかし、剰余金は一銭も国債の償還に充てられていない。
何に使ったかと言えば。NTT株式の譲渡益を活用した公共事業である。景気対策である。もともとは自治体や第三セクターに無利子融資したものである。NTTの売却益が雲散霧消してしまったことについて政府は一切の口をつぐんでいる。
●国債依存度の無意味なパーセント
第2次補正予算によって、今年度予算の国債依存度(歳入に占める国債の割合)は最終的に43%にものぼることになった。マスコミは「過去最高」と危機感をあおっている。だが、本当はもっと恐い状況になっているのだ。
82兆円の当初予算の歳出に今回の補正予算6兆8000億円を加えると最終的にほぼ89兆円規模となり、国債発行額は31兆円プラス補正分7.5兆円で38兆6160億円におよぶことになる。
当初予算の歳出が82兆円といっても内訳は「国債の金利費」がほぼ20兆円で、「地方交付税交付金」13兆円も国の支出とはならない。47兆円という「一般歳出」だけが国の政策的経費である。政府が発表している国債依存度というのは予算総額から地方交付税交付金を差し引いた額に対する国債依存度でしかない。
歳出は当初の47兆円プラス補正6.8兆円で53.8兆円、国債発行額38.8兆円で計算すると、補正後の瞬間風速的な意味の国債依存度は71%にもなるのだ。逆にいえば、われわれが政府から受けているもろもろのサービスのうち税金でまかなわれているのは29%でしかないということになる。
1999年度の日本経済は38.8兆円の国債発行によってようやくプラス成長を維持できるということを知れば、民間経済の回復がなければ、来年度もまた同じようにというより、さらに国債発行を上乗せした財政的支援なくして成長を維持できないということになる。

1998年11月28日(土) そうだったのか国債って国が買っていたんだ!

1999年01月25日(月) 国債という日本の打ち出の小づち(1)

1999年01月28日(木) 国債という日本の打ち出の小づち(2)

1999年02月01日(月) 国債という日本の打ち出の小づち(3)