サマータイムに欠ける日照時間の議論
執筆者:小関 雄二【ロンドン在住】
04月26日付萬晩報「アメリカにおけるサマータイムの効用」に対してロンドン在住の小関雄二さんから興味深い反論をいただいたので全文を紹介します。
日本のサマータイム論議に時として欠けるのは、地理的及び日照時間の視点ではないでしょうか。
サマータイムが一般的な欧州諸国は日本の緯度に比べると相当北に位置しています。現在私が住んでいるロンドンは北緯52度ぐらいですから、樺太の北部、カムチャッカ半島の南端といった当たりです。
正確な時間が分からないので申し訳ないのですが、冬至の頃の日照時間は約8時間弱です。朝8時過ぎに日が昇り、午後4時前には日が沈みます。天候にもよりますが、実際には朝8時半過ぎまで薄暗く、午後3時半には暗くなってしまいます。
一方夏至の頃は倍の16時間以上の日照時間があり、日の出は4時半頃(冬時間では午前3時半頃)、日の入りは午後10時近く(冬時間では9時近く)になります。日の出の方はその時間に起きたことがないので、何とも言えませんが、夜暗くなるのは10時半近くです。余韻があるためでしょう。
緯度が高いことによる、もう一つの影響は日差しが余り強くないことです。夏場でもジリジリするような日差しはあまり続かず、湿度の低さとも相まって快適な夏を過ごせるわけですが、日本人にとっては何か物足りない感じです。あっという間に夏が終わってしまうというのが実感です。
よく言われることですが、ヨーロッパでは、今頃の新緑の季節からは、人々が争って日光浴に繰り出し、お昼時の公園や川岸はそう言った人達であふれ返ります。他の地域もそうかどうか住んだことがないので分かりませんが、過去に住んだことのあるフランスやスイスではそうでした。
ロンドンの場合はパブと呼ばれる飲み屋兼レストランで食事をすることが多いのですが、金融街であるシティの周りでも天気の良い日にはパブの前は大変な混雑で、エールと呼ばれる生ぬるいビールをちびちびとやりながらほとんど何も食べずにおしゃべりに興じています。
彼らの目的は飲むことであり、おしゃべりをすることでしょうが、それと同時にやっと十分に照らし始めた日光を出来るかぎり、体内に取り込むことなのではないかと思います。それも意識的にやっているのではなく、そういった環境に長く置かれた民族としての本能でしているのではないかと感じています。
ヨーロッパ人はすぐにサングラスをかけます。日本人に比べて圧倒的に多い。それは瞳の色が薄くて、あまり明るい環境に耐えられないからです。ヨーロッパの家やホテルに入ると薄暗い感じがします。間接照明が多く、日本人には何となくうっとうしく感じます。もっとパッと明るくすればいいのにと。
このことはよく雰囲気を出すためにやっているのだと説明されたりします。それも確かにあるのでしょうが、もう一つの理由は、日本人がちょうど良いと感じる明るさを彼らの生理は明る過ぎると感じるからではないでしょうか。ではなぜ明るすぎると感じるかといえば、普段の生活環境がその程度の強さの日照しかなく、それを最も適当と感じる生理になっているからだと思います。
サマータイムの本題に戻って、その様な彼らが指向するのは、必ずしもより長く自分自身の時間を過ごすことでも家族と過ごすことでもなく、日光に身体をさらす時間を少しでも長く確保することなのではないでしょうか。
省エネや余暇の有効な利用法などは後から付いて来た、ないしはサマータイムの意義を強調するために後から考え出されたことであって、本質的には生理的要因が第一義だったのではないかと私は考えています。
明るい内に子供を寝かせることは大変です。日本人でなくても思わず時間外労働が増えがちです。サマータイム初日に1時間早起きするのはこちらの人にとっても辛いことです。生活のリズムを壊さずに済めばそれに越したことはないのです。もう既に導入されてから長いこともありましょうが、サマータイムの是非論など聞いたことがありません。
一般的にヨーロッパでは子供のしつけが厳しく、安全に関する感覚が違うためもあるでしょうが、例えばフランスでは小学生以下の子供が一人で近くの公園に遊びに行くといったことは殆どありません。
コンビニもないし、アルコールを出さずに夜遅くまでやっている場所はハンバーガー・ショップくらいしかないので、中・高校生が夜遊び回るようなこともあまりありません。大学生になると別です。英国では16歳から飲酒が認められているので、そこらが分かれ目かと思います。
少々短絡的に過ぎるとお考えかも知れませんが、日本でサマータイムが導入されると、親の子供に対するコントロールは益々効かなくなるでしょう。それでいて普通の人の生活は特に何も変わりないと感じるのではないでしょうか。
私はどちらかというとサマータイム賛成派ですが、日本人が往々にして犯す「仏作って魂入れず」的な、環境指向の余暇活用のと色々ご託宣は並べながら結局はアメリカもヨーロッパもやっているからという、ファッションとしての導入にならなければ良いがと考えている者です。
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