アメリカにおけるサマータイムの効用
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
サマータイムの導入について以前から考えていた。4月4日付日本経済新聞の「エコノ探偵団」に導入の是非をめぐり論議が詳しく解説されている。しかし、こんな議論、あんな反論があることを羅列しているに過ぎない。つまり「導入提言」にはなっていない。
反対論の先鋒は「残業が増える」というものだ。次に「一般の人にとっても年に2回、各家庭に平均十数個あるといわれる時計の針を調整する必要がある」という議論を展開している。お年寄りは大変だというのだ。世の中でも同じような枝葉末節な部分での堂々巡りとなるのだろうと考えている。
今回のサマータイム論議は、そもそも1997年12月に開催した地球温暖化に関する京都会議で、日本が二酸化炭素などを1990年水準から6%削減することを公約したことがきっかけだ。つまり省エネに効果があるというところから始まったした。だが、日本での組織の議論というものはいつだって否定論から始まり、サマータイムにもすでに1年半の時間が浪費されている。
明るいうちから仕事の後のビールを飲にたいし、なにより明るいうちに家にたどり着く可能性だって悪くない。それくらいの軽い気持ちから議論をスタートできないものだろうか。やってみてだめだったら元に戻せばいい。憲法を変えるわけではない。それくらいの気持ちで政策変更があってもいい。
萬晩報は何よりも社会を変えるきっかけとして「早起き」も悪くないと考えた。筆者は勤務の都合で3日に1回は午前5時半に起床する。慣れれば大したことではない。さすがに冬の暗い朝はつらいが、夏場はいつもさわやかである。
霞ヶ関の官僚たちは宵っ張りであるため、朝は遅い。午前10時に職場のメンバーがようやくそろうなんてことは日常茶飯事だ。だから午前中は仕事にならない。サマータイムに一番反対しているのは、霞ヶ関なのだろうと考えている。だって多くの高級官僚は朝のラッシュアワーを経験する必要がないほど霞ヶ関の近くにお住まいなのだから。
シリコンバレーの八木博さんからアメリカでのサマータイムの効用について書いておられるので紹介したい。
●早起きが報われる社会
米国では、朝早くから店はやっています。パン屋さん、家庭メンテナンス道具屋は朝7時には開いていますし、車の点検、エンジンオイルの交換も8時には店を開けています。本屋も8時から開いている店は多いです。銀行はATMが24時間ですしCNNも24時間ニュースをやっていますから朝早く起きるということでは、あまり不便はありません。
また、たいていのホテルは朝6時からは朝食がとれますし、早起きは決して無駄にはならないシステムが出来ています。私の職場でも、製造ラインは夕方の出荷にゆとりを持って対応するために、8-17時の勤務を6-15時の勤務に変更しましたが、従業員からはとても喜ばれました。その理由は通勤のときの交通渋滞を外していることと、家に早く帰れることです。
そう言えば、シリコンバレーの交通渋滞はハイウェイを中心として午前6時に始まります。毎日毎日渋滞のために浪費時間が増えるといわれて、とても評判が悪いです。これは、また別のところでご報告しますが、サマータイムの背景は早起きを実施している社会で、しかもそれを容認するところにあると考えています。
それと、意外なことですが夜遅くまで開けている店が多いのです。有名な本屋のBurns and Noble’sは11時まで店を開けていますし、大体夕方は8-9時までは開けているのが普通です。もちろん24時間のスーパーやコンビニは一晩中店を開けています。
●サマータイムの経済効果と背景
サマータイムの経済効果は、基本的には太陽の動きに合わせた生活をすることと考えていいと思います。すなわち、明るくなったら起きて、暗くなったら寝るという生活です。夏の間は1時間早めましょうということです。
ですから、本来なら夜の時間が1時間早くなり、夜間の照明の節減効果があります。その他には、家に早く帰る分、家族との外出が増えて、外食産業やスーパーの売り上げが伸びます。また、健康ジムなどの参加や、帰宅後のスポーツなどが盛んになります。
その時、家族との会話がないとすると、これは結構地獄になる要素もあります。そんな意味で、サマータイムを支える要素は、退社後の生活そのものがポイントになります。
カリフォルニアでの退社後の生活を見ていると、地域の活動や家族でのレクレーションなどが盛んで、そのための公共施設は、無料か照明代程度で利用できるケースが多いようです。
そして、多くの人が余暇を利用して、活動をしています。また、退社後の時間を利用して、仕事の範囲を広げたり、レベルを上げたりする学校に通う人もいます。(これは、サマータイムとは直接の関係ありませんが)
●サマータイムから考えること
サマータイムになって考えるのは、夕方が遅くまで明るいということです。夏には夜9時頃まで明るいのは、かなり普通でして、退社後から夜9時までといえば、そこそこまとまった時間が取れるわけです。そこでは、家族としての時間が重要になるわけで、米国人は常に家族に向かい合うような生活を選択しているといえます。
こちらで初めてサマータイムというのを体験したときには、生活の背景とのつながりはあまり見えませんでしたが、2回目のサマータイムではさすがにそれを支えるバックグラウンドが見えてきまして、これは簡単に時計を1時間進めるだけの話ではないと思いました。
サマータイムが終わると、ハロウィーンというお祭りがありまして、これを終えると秋がほぼ終わります。そうすると米国の庶民の生活は一気にクリスマスになって行くのであります。(やぎ・ひろし)
八木さんへhyagi@infosnvl.com