執筆者:中野 有【とっとり総研主任研究員】

国会では日米ガイドラインや安全保障の論議が盛んに行なわれている。気骨のある政治家が、周辺諸国の動向を分析し建設的な話し合いを通じ日本の役割を明確にするのは肝要であり、また健全な姿である。このような論議が沸騰する背景には、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の地下核疑惑施設やミサイルによる軍事的挑発行為がある。

日本は、米国の共産主義封じ込め政策の恩恵を受け、米国の傘の下で守られてきた。よって、国防や外交についての真摯な議論から距離を置いてきた。しかし、冷戦構造が依然として残る朝鮮半島において、今、大きな変化が起ころうとしている。韓国の太陽政策、米国の予防防衛が示すように「抑止と対話」による具体的な包括政策が北朝鮮に提示され、北朝鮮も前向きな姿勢を示しつつある。

では、日米韓の連携を強化することを前提に、日本はどのような役割が期待されているのだろうか。筆者は、米国政府系シンクタンクである東西センターから、とっとり総研に出向し、北東アジアの発展の可能性を重層的かつ複眼的に研究している。北朝鮮情勢の変化に伴う米国や韓国の動向を分析し、日本並びに鳥取県等の役割を考察してみたい。

北朝鮮のミサイル危機に対する対応を考えるに、37年前のキューバ危機に対するケネディ大統領の対応が参考になるのではないだろうか。ケネディは、キューバにおけるソ連製攻撃用ミサイル基地が米国にとり重大な危機であるとし、海上封鎖や軍事による強硬な意志を表明した。

また、ケネディは、軍事による抑止策を行うのと同時に発展途上国への技術移転を目的とする平和部隊やアジア・太平洋の文化や経済協力を主眼とした研究所(東西センター)の設立を推進した。要するに、ハード(軍事的関与)と、ソフト(経済開発・経済協力)を同時に推進したのである。

約5年前の北朝鮮の核開発に対する米国の対応は、カーター元大統領の調停もあり、飴と鞭の飴が強調されたソフトランディング政策がとられた。それが北朝鮮の核の軍事的転用を断念する見返りとして、食糧やエネルギー支援並びに朝鮮半島エネルギー開発機構の設立に繋がった。

しかし、その間、結果的に北朝鮮が交渉を有利に進めてきたり、昨年8月のミサイル実験の影響もあり、米国の対北朝鮮政策の再考が行われた。ペリー元国防長官が対北朝鮮調整官として任命され、精力的に関係諸国を回り韓国や日本との調整を終え、北朝鮮問題への最終的な解答ができつつある。

この包括的政策には、飴と鞭の両方が強調されており、北朝鮮が建設的な対応に応じない場合は、昨年のイラクへの米英の攻撃が示すような断固たる措置を取ることもあり得るとのシグナルが含まれている。それに対し、北朝鮮は米国の対北朝鮮政策が議会を中心に強硬路線に転じる可能性があると察知し、米朝施設査察で合意すると同時に、北朝鮮は実利的見返りとして食糧支援等を獲得した。

韓国の金大中大統領の提唱する交流と協力を通じ北朝鮮を開発する太陽政策は、米国の路線と連携したものであり、米国の軍事的な盾があってこそ効果的に機能すると考えられる。韓国は、北朝鮮の金剛山への観光や、北朝鮮の経済特区への投資促進等を通じ、南北対話を推進している。また、米国は国際機関を通じた食糧支援に留まらず二国間の農業技術協力を進めている。

そこで日本の役割だが、北東アジアの天然資源、労働力、資金、技術協力が相互補完的に機能することにより自然発生的経済圏が構築されるとの前提に、日本の資金・技術的な支援と協力を通じ北東アジアの信頼醸成を構築することにあるのではないだろうか。

日米韓の包括的アプローチにより、朝鮮半島の雪解けの兆しが見えてきた今、昨夏の第八回北東アジア経済フォーラム米子会議で提唱され北東アジアのインフラ整備と北東アジア開発銀行の必要性や北東アジア天然ガスパイプライン構想等に関する実現可能な論議を行う絶好のタイミングである。安全保障の問題を検討し、北東アジアの信頼醸成に関する日本の役割を明確にした場合、環日本海の交流の重要性が見えてくるのではないだろうか。(1999年3月17日 なかの・たもつ)

中野さんへメール