壮大なる中国の混沌–国営企業の民営化(南田寛太)
執筆者:南田 寛太【萬晩報通信員】
私は中国の東北地方で合弁企業に関係しているが、現地で見聞した日本人には意外と知られていない興味深い現実がある。
中国政府は朱鎔基(しゅようき)が総理になり、上海閥が実権を確立して以来、なりふり構わぬ非常に大胆な資本主義化を推し進めている。その中で、中国政府が最も頭の痛い課題は、国営企業の措置だろう。ご存知のとうり、社会主義中国は、元来、全ての事業体が「国営」であり、極小さな個人商店を除き、私企業、民間企業、は無かった。
しかし、トウ小平の「社会主義市場経済」政策の中で、個人企業、集団企業(複数の人間が株を持ち合う、株式会社に類似した企業形態)を認め、奨励した。これは「社会主義市場経済」の新たな担い手の創造、「欲望」刺激による経済発展の実験だったのであろうが「予想以上に」うまく行った。
元来が商業民族として、天賦の才能のある漢民族であるから、政府が「自由に商売をやってよい」「利益を上げる事は良い事だ、国家に貢献する」とお墨付きが出ると、もう猫も杓子も個人商店を始める。公務員も、国営企業の構成員も、休日には、路上で個人商店を勝手に開くし、時間外の夜や休日には「内職、副業」に精を出す。
ひどい例は自分の職場の製品、備品、を「国営企業だから、国家の物は人民の物」と盗んで売り出す始末である。国営企業は賃金が抑えられており、月に5000円から10000円と低いが、休日、夜間に「副業」をするとその、数倍の収入になる。これでは、真面目に「国営企業の本業に努力する」意欲が出るはずが無い。役人は自分の立場を利用し「便宜を図る」内職に余念無く、国営企業の幹部は「事業展開」という副業に精を出し、一般国営企業員は、休んでも内職、副業に目の色を変える。
その結果、従来から生産効率が悪い国営企業は一層生産効率が落ち「開店休業」「死に体」企業が続出している。その様な状態に対して国営企業であるから誰も責任を感じないし、責任を取らない。(これは、日本でも同じである)。雑駁な言い方だが、国営企業の8割か~9割が赤字企業か、「死に体」と言われている。
それを見て、朱鎔基総理が打ち出した政策は、「宝山製鉄、大慶油田など500余りの超大企業を除き、全ての国営企業を民営化、株式会社化する」という政策であった。そして各地方政府は、政策を理解する暇も無く、その地方の国営企業の売り出し公告を公表し出した。その内容は、該当企業の資産、負債、財産明細と借り入れ明細、生産能力と実績、従業員規模など。販売対象は、外国企業、中国国内の新興企業家、香港資本、そして従業員有志による株の持ち合いによる株式会社化である。
しかし、ちょっとその地方の該当企業の事情に詳しい者の目から見ると公告内容は実態から大きく相違していた。倒産寸前の休眠企業も「正常稼働中」であったり、負債は少な目に、資産は多目に公表された。昨年3、4月には、地方ではこの話題でもちきりであった。
そして半年経って「どうなったか」と聞くと結局、まともな買い手はつかない。売りに出された国営企業(数百の超大企業を除いた全部)では、ますます労働意欲が低下し、倒産、休眠、半休眠が続出している。 それはそうだ。自分の国営企業が売りに出されて、今まで通りに勤労意欲を出せ!と言う方が無理な話しだ。
そして、倒産、休眠状態の国営企業は、整理ポストに入り、それを安く買いたたき、土地を分割し転売したり、倒産工場の機械設備を中古市場に売りまくる「サバンナのハイエナ」が活躍する。サバンナではハイエナも掃除人であり、中国でも有意義なのかもしれない。国営企業を買うと、従業員に対し雇用の継続責任が伴うが、倒産企業であるとその必要が無くなるという訳である。
朱鎔基総理は、単に「国営企業の株式会社化、民営化」を想定し政策を打ち出したのか、それとも、生産性が低すぎて、中国発展の阻害要因になりつつある国営企業を、市場の原理で、解体させ、世話するべき膨大な従業員を市場原理で「おっ放り出し」、強引に処分する事まで想定して、政策を打ち出したのか。私は、恐らく後者であると想像している。
中国5000年の歴史の中では、いつも何百万、何千万人の流民が出てきているが、いまや、朱鎔基総理の「国営企業の株式会社化、民営化」政策は、億を超える流民を生むのではないかと思われる。これは、今後の中国の政治経済のみならず、世界の重大な不安定要素になるのではなかろうか。
新聞やテレビに取り上げられない中国経済の底辺の流動化から目を離すわけにはいかないようである。
(5通巻02号 ナンダカンダの中小企業・ベンチャー通信)
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