執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

1998年11月29日付萬晩報「トウ小平が自衛隊OBに語った日中戦争の新解釈」には多くの反響メールが届きました。内容が刺激的だったためもっと強い反発が多くあるものだと思っていましたが、少々拍子抜けでした。

筆者は文化大革命直後に学生時代を送り、中国語を学び、その後も中国に関心を寄せてきました。アジアの安定には日中の良好な関係が不可欠であることはいまも当時も変わりません。ですが、今でも「日中友好」という表現は嫌いです。あまりにも空虚な言葉です。「米中友好」なんて表現がアメリカと中国との間に頻繁に使われるわけではありません。

個人ベースの関係にまで国家関係が入り込んでくるのはおかしな話でしょう。日韓友好とか日米友好なんて表現を使ったら笑われますよ。なのに日本と中国の間だけは「踏み絵」のように友好人士であるかどうかばかりが問われるのです。

筆者の心の中には、いつになったら中国政府が「日本軍国主義」と言わなくなるのだろうかという不安がわだかまりとしてずっとありました。そんな日本人の一人として、中国の要人の日本に対するあるいはアジアに対する姿勢をずっと見続けてきました。

あえてこのコラムを発表したのは第二次大戦における中国での日本の侵略行為について正当化しようとしたものではありません。戦争は悲惨なものです。ですが、人類はその悲惨な戦争を繰り返し、いまも続けています。残念ながら世の中に戦争があるのだという現実に立ち返って国家間のことを考えざるをえないのです。

国家間の戦争もあれば、血みどろな内戦もあります。そして戦争には勝ち負けがあります。一時的に仮想敵国をつくらなければならない時もあります。

表面的ではあったかもしれませんが、1980年代の日中関係は非常に良好でした。故トウ小平氏と胡耀邦総書記は微妙な中国の国内情勢を抱えながら、過去へのこだわりを乗り越えて、ガラス細工のような日中関係を修復しようと努力したのだと思います。大変なことだったと思います。

そこには「なんとしても日中間に刺さった棘を引き抜かないかぎり、極東の政治的安定は訪れない」という当時の中国上層部の思いがあったのだろうと思います。ですが、江沢民氏に過去のどういう思いがあったにせよ、今回の訪日は日中間に育まれつつあった相互の尊敬の念をぶちこわしたのだと思いました。トウ小平氏や胡耀邦総書記の努力を無にするものでしかありません。

人と人の関係と同様に、あるいはそれ以上に国家間の関係は微妙です。国家のトップの認識がこれほど国家間の関係を揺るがした事件はないと思いました。

以下にいただいたメールを掲載します。ただひどい中傷を含んだメールは掲載を控えました。

【やはり違うと思う】中国からの留学生です。伴武澄様の文章を読んで、やはりちがうことを考えます。トウ小平氏の話は本当。日本の侵略戦争を感謝することではなくて、ただの歴史立場を立て、中日友好のことを考えるてある。いくら日本の侵略戦争をかけて共産党は中国の政権を取るの結果になってもあくまては共産党一党の利益だけのことである。逆にこの侵略戦争の中でわれわれ中国は何百万人を殺されて、何億ドルの財産がなくなて、なんと言ってもこの戦争に関して日本に感謝するわけない。

同じ考えると、アメリカの原子爆弾のかけて、日本は戦争を負けて;軍国主義を改めて、いまの民主主義の道を選らんだ。そう言えば伴 武澄 様はアメリカの原子爆弾を感謝しますか。広島と長崎の原子爆弾で殺されただの人々と彼たちの家族は原子爆弾を感謝しますか。

だから、江沢民が過去の歴史にあまりにも固執ではなくて、ただあの侵略戦争の責任のことを明めて、この基楚の上に友好のことをはなすこと。もし江沢民さんは本当に伴武澄様 言だような日本の侵略戦争を感謝すると、侵略戦争の中で殺された何百万中国人と家族たちはどの感じますか。(中国からの留学生)

【さまざまな見解を好ましく思う】トウ小平が自衛隊OBに語った日中戦争の新解釈”をたいへん興味深く読ませていただきました。最近日本のアジア侵略や太平洋戦争について、さまざまな見方が発表されることを嬉しく思います。戦争は各国の経済・政治・文化・宗教が複雑に絡み合っておこるはずなのに、これまではなぜか日本が一方的に悪いという見解しか表に出てきませんでした。教育の場でもこのような新解釈を教え、議論させることが必要だと感じます。(佐藤)

【中国語の原文が読みたい】萬晩報を毎号愛読しております。今回(11・29号)は特に興味を抱きました。引用された(6.06号)も再読しました。お願いとしては中文の原文コピーを読んでみたいと思います。恐縮ですが便宜をお計らい頂けませんでしょうか?なお私は中文ソフトはChinese Writer V4、通信ソフトはOutlook Express 97を常用しております。IE4.0の多言語の簡体字、繁体字も読める設定にしております。Faxでも結構です。利用は私個人の閲読目的に限定することをお約束いたします。一方的に勝手なお願いをする非礼をお許し下さい。(飯田)

【萬晩報】みなさんから原文が読みたいという要望をいただきましたが、日本語の原文しかありません。しかも掲載した分がほとんどなのです。

【こんな事公表していいのかな】「トウ小平が自衛隊OBに語った日中戦争の新解釈」を拝見しました。いやいや、こんな事公表しちゃっていいのかなと思いました。実は私、台北に義務教育を9年間、北京に仕事で3年間、そののこりを日本ですごしましたので、大抵の事情は分かっているつもりですが、公的に書かれるとちょっとショック。しかし、今こういう事を書く(書ける)って事は、なにかあるのか??ってつい疑ってしまう。そろそろ、日本もほっていけないっ事か?ちょっと恐いなですね。まあ、別に僕はいいですけどね、ハイ(konko)
【思わず何か書かなければならない気になった】ばん様。はじめまして、僕は一人の在日中国人です。MSNのニースページに掲載された伴さんの文章を読んで、思わず何か書かなければならない気になりました。江沢民の来日中に演じた「無戦略の外交」を残念に思う在日中国人は少数ではないようです。中国は欧米またロシアと韓国に対する最近の外交戦略がなかなかのものなのに、なぜ日本だけ・・・。

国内の旧勢力あるいは江沢民氏の個人のつらい経験のせいもあるかもしれませんが、もう一つの重要なことは無視できないと思います。

だいたい、欧米との首脳会談は中国側が必ず民主・人権問題で批判されているが、日本だけそれについてなにも言わない(言えない)。なぜというと、歴史認識問題があるからです。中国政府は、歴史問題で日本を牽制すれば、日本側にも決して簡単に譲歩してくれない古い勢力が強いから、結局、歴史問題の口喧嘩に止まってくれるではないかと見ているでしょう。

今回江沢民の訪問を見て、これからの日中関係を悲観視する日本のマスコミがかなりあるようですが、中国と付き合う場合は、そんな悲観視しなくてもいいと私個人が思います。品性の欠く外交ゲームは実うんざりですが、日本の外交戦略も検討すべきところが残されているでしょう。これから、日本政府は中国の経済建設に協力すると同時に、国際責任を忘れずに中国の民主人権問題もちゃんと言えるような立場になっていただければ、ありがたいと思います。

歴史認識問題は両国の世帯交代とともに、解決されるでしょう。以上はあくまでも個人の意見です。では、伴さんの次回のインターネット発信を楽しみにしています。(一人の在日中国人・劉)

【毛沢東も日本軍を評価していた?】29日付け「萬晩報」拝読。77年の自衛隊OBに対するトウショウヘイ発言のオリジナル・テキスト入手とか。大いに興味あります。大兄の御尊父の玉稿も拝読。ただし、共産党が日本軍を評価していたという話は毛沢東も言っていたような気がします。いずれにせよ、大兄の原稿の元になった発言稿はどうすれば読めますでしょうか。教授願います。(濱本)

【トウ小平氏の認識も、江沢民氏の認識も真実】はじめまして,私は大学に4年+α通っている落第生です。最近昭和時代の戦争の評価,特にマスコミに出るものが右に左に両極端に振れ、コインの裏と表がどちらがコインの真の顔かを争うような様相に危うさを感じています。

歴史の評価はどちらが本物というものではなく、両方真実,両方にある程度の真実が含まれるものと思っています。ですから、トウ小平氏の日中戦争の認識も、江沢民氏の認識もどちらも真実であると思います。国権の最終的発動である戦争、武力の行使というものは多様な価値,利益が包含されるものです。昭和の大戦においては一面では欧米からの植民地開放という面もあり、また他方では、日本の植民地化の推進もあったでしょう。このうち、どちらかの面を強調するものは一方を真実とし、一方を誤りとするでしょう。

このバランスの欠如が物事をややこしくするのです。言うことは言う、謝ることは誤るという姿勢が人間関係においても、国家の関係においても重要です。

いつまで日本は謝れば言いのだ、日本はずっとぺこぺこしないといけないのか、といった意見があります。これはナショナリズムの側に立てばもっともであります。しかし,東南アジア諸国は別として中国、朝鮮半島との交流の年月を考えれば、まだ戦後半世紀しか経っておりません。この程度の年月ではお互いの傷は癒えないと言えます。最低でも三世代約百年の年月をお互い平和に友好に交流を続けていけば、今よりよい関係が作り上げれると思います。

歴史事実の評価を下すための資料は時とともに散逸するため収集を急がねばなりませんが、その評価を下すのはある程度のときをおいて心を静めて行わねばなりません。トウ小平氏の発言は歴史の一資料として重要ですが、これによって一概に歴史評価が下せるものではありません。このことを日本の言論人に心にとめて欲しいと思います。だらだらと脈絡なくつづってしまったことにお許しを。(徳田)

【自身の責任で共同通信で明言せよ】まず貴記事の姿勢に自立の人格が読み取れない。トウ小平がこう発言したからこうだ と言うのではふらふらと 日和見をきめ 巧みに世論を操作したい悪しき手法とでもいえないでしょうか。また 江沢民が過去に固執... で品性を欠くとはーならば 貴兄はまず 自身が過去をどのように とらえているのか 自身の責任をかけて 明言し共同通信にて世界にとうべきではありませんか。(宇野)

【小公望著「中南海の最高機密」を知ってますか】こんにちは。いつも萬晩報を拝読させていただいております小林という者です。今回のテーマに関する事が、小公望著「中南海の最高機密」(小学館)という本に書いてありました。ご存知かもしれませんが、一応ご連絡まで。では、失礼します。(KOBAYASHI)

【大変感心しました】この記事大変感心しました。NIFTYーSERVEの中のメロウーフオーラムの会議室で江沢民の訪日時の言動で議論がでています。この記事を転載したいとおもいますがご了解いただけますか?(亀井)

【青年報では日本謝罪せずと報道】「共同宣言に謝罪明記せず」について中国青年報が報道。5日の中国青年報紙によると、中国抗日戦争史学会の劉大年会長は4日、先の江沢民国家主席の訪日について「日本は共同宣言に中国人民に対するおわびを盛り込まず、1つの歴史的機会を逸した」と論評。また「日本はできることをせず、中国とアジア人民に、また歴史を再演しようとしているのかとの疑念を抱かせた」と批判した。 これは北京・廬溝橋にある抗日戦争記念館で開かれた江主席訪日を総括する学者、専門家約50人の座談会での発言。劉氏はさらに「日本は2回失敗した。1回目は戦場で、2回目は道義上の失敗だ」などと厳しい調子で発言したという。これまで中国国内の一般報道は、日本政府が共同宣言への謝罪の盛り込みを拒んだ事実をはっきりと伝えておらず、異例の報道といえよう。

中国の公式報道とされる新華社電は劉発言に触れておらず、江主席が訪日中に行った歴史問題についての講話については、座談会参加者が「中日間に歴史を鏡として未来を切り開き、21世紀に向けた友好関係を発展させる礎石となる、歴史的かつ現実的意義を有するもの」と一致して評価した点を中心に報じた。(Kosaka)

【おれたちかんけーねーよって気持ち】拝啓、はじめてお便りさせていただきます。オーストラリア在住の消化器医です。1959年生まれ。毎回、論点の鋭い切り込みに目から鱗の落ちる思いをすることがあります。

今回、12月9日付の朝日新聞でこんな記事を目にしました(上記)。ふと思うのはまず、たかが50人の座談会でこれがでたからといってなんの影響力があるのかということですが、次に思ってしまうのは、この場所になぐり込んで(参加して)、徹底的にふだん思ってることを議論のネタにしてみたいということです。今だったら中国よりも韓国の方がおもしろいかもしれません。

当地では、何かにつけて自由な感じはありますが、その実は本邦以上に政治的、マキャベリスティックであるように思います。これはオーストラリアの話ですから、英国やその他のヨーロッパ諸国にいたっては、もっと目に見えてだれにでもわかる方法が浸透しているのではないでしょうか?

昨今の主にアジア諸国のに本邦に対する発言内容は、多分に”もうあんなに古い昔の出来事だったと、わかっててなんでするの?”的な事柄が多いように思います。”なんか悪い事していったっけ?”(それも死んだ叔父さんとか爺ちゃんの世代)?それって僕らにとっては、正直言って、”おれたちかんけーねーよ”って気持ちに近いと思うんですが・・・。

将来的には日本も韓国の統一経済圏には行っていくのでしょう(新八紘一宇と僕は呼びます)。そこにでEUならぬAU的な観念も当然含まれてくるでしょう。そうなる可能性があるのはわかってるのに、今更僕らの知らなかったこと(知らなかったことを新たに覚えることも大切だとは思いますが)、ことを一歩通行でメディアに取り上げられることが続くのも気持ちよくありません。

もしもそんなひがみ根性だけで(と、あえていうならば)、何かを発言されたり発言したりするならば、それに対して大きな声できちんと反論することも必要なのではなかろうか。そのためにも、私にもチャンスがあるならばいつでも声を大きくして、はなしてみたいと思います。(Kosaka)

【何を言いたいかさっぱりわかりません】次長様。私は中国からの留学生です。たまたま貴殿の評論を読ませていただきましたが、何を言いたいかさっぱりわかりませんでした。

私は中国と日本が仲良くしていかなくてはならないと思いますが、貴殿のような考えを持つ日本人とは仲良くなりたくない気持ちです。トウ小平が日本軍が中国共産党を助けたと言ったなどのことを持ち出して、何の証明になるのか。その戦争は日本軍が中国共産党を救うために起こしたとでも言いたいのですか。

私は日本にきてもうあれこれ八年にもなります。深く付き合っている日本の友人は何人もいます。その友人らとは昔の戦争の話は一度しかしていません。しかし、一度だけで、彼らは心の中でその戦争について正しい認識があると私はわかりました。その後みな一緒にいるときは誰でも戦争の話は持ち出さない。残念ながら、彼らはみな年寄りです。

一人の中国人として、その戦争について日本人を責める気持ちが少しも有りません。しかし、それは日本人がその戦争について正しい認識がある上での話だと思います。国家レベルの話になると、一人の中国人対一人の日本人と同じだと思います。日本の国家を代表する内閣の役人さんが政府の宣言などに背いて変な発言をしたりするから、江沢民主席が国家政府を代表してそのようなことを無いようにと念を押すのは当たり前と思わないですか。(Yang)