Food Bankを実践するカナダのある風景
執筆者:Atsuko【SuimonEngineeringCanada.】
フードバンクという名前をお聞きになったことはありますか?
クリスマスが近付いたこの時期、学校やコミュニティーセンターなどの玄関ホールに飾られたクリスマスツリーの下には、包装紙などできれいに飾り付けられて「FOOD BANK」と書かれた、大きなダンボール箱がおいてあります。
12月の学校からのお便りには、クリスマスまでの一週間分のカレンダーが付いていて「月曜日はパスタの日」「火曜日は缶詰の日」「水曜日はライスの日」「木曜日は朝食(パンケーキミックスやジャム)の日」などと書かれています。強制ではないのですが「家から持ってきてフードバンクに入れてください」というわけです。
●ターキーまで食べられるFood Bank
そう、フードバンクは、食料品を寄付するところです。クリスマスの時期以外にもスーパーマーケットなどにはFOOD BANKが常設してあって、買い物客が入れたらしいパンや缶詰が入っていることがあります。一般からの寄付だけでなく、数社の大型スーパーマーケットチェーンからも大量の寄付があるそうです。実際フードバンクは、主にこのルートからの寄付で賄われているということです。
フードバンク協会と付属キッチンがバンクーバーとその近郊にいくつかあって、寄付された食料品で食事を作って教会などで配布したり、食料品を配ったりしています。運営状況はかなり厳しいそうですが…。
10月のThanks Giving Day=感謝際(アメリカでは11月ですが、カナダの秋は短いので、Thanks Giving も1カ月繰り上がっています。)の伝統的な食卓は、ターキー=七面鳥ですが、教会ではターキーも食べられます。
ネクタイで正装した6歳の男の子とそのお母さんが、教会でターキーを食べている写真が新聞に出ていました。「生活するのがやっとで、ターキーを用意する余裕はないが、息子に伝統的なThanks Givingの食事を味わってほしい」とインタビューに答えていました。
彼女はホームレスの人ではなく、身なりも普通ですし、子供も明るい様子です。もしも私が彼女と同じ状況であれば、いくら伝統的食卓でもきっとターキーは我慢するだろうな、とは思いつつも、「フードバンクの利用者=だめな人」という偏見のあった自分を反省しました。
●困ったときはお互い様が実践できない私たち
バンクーバーのダウンタウンには「スペア チェンジ=小銭下さい」と言っている人がたくさんいますが、今まで私はあまり気にしていませんでした。そういう人たちは日本にもいたような気がしますし、「あんなに上手に英語が話せるんだから、いい仕事があるだろうに…」と思っていたくらいです。
ところが、最近気になる出来事がありました。高校生くらいの男の子に「バスに乗りたいんだけど、1ドルありませんか」と声をかけられたのです。雨の日で、バス停の近くでした。「1ドルでなんかバスに乗れないんだから、うそだね」とその時は思ったのですが、あとで人に聞いたら学生は1ドルで乗れるのだそうです。
皆さんいかがですか。見ず知らずの人に「(何か)下さい。」と言うことはそう簡単にはできないのではないでしょうか。日本人にとっては言うこともできないし、「はい、どうぞ」とあげることもできない。
私の場合は、まずギョットしました。正直、とてもびっくりしたのです。そして、「この子は不良」と勝手に確信してしまったのです。良く考えると、不良が「1ドルちょうだい」というのは変ですね。
いつもは歩いている道程を、その日は雨なのでバスに乗りたかったのか、バス代を使ってしまったのか。それとも、ただお金が欲しかったのか、真実は分かりませんが、多分、カナダの人だったら1ドルあげたのではないかと、今になって思います。「必要だから声をかける」「少しは余裕があるからあげる」のでしょう。「困っているときはお互い様」という、日本語でも良く聞き慣れたことを、実践できなくなっていた自分が、悲しいです。
ところが、こんなこともありました。スイミングプールの売店の前で、やはり高校生くらいの女の子が「Do you have a dollar?」と言うのです。
「haveってどういうことよ。ほっといてちょうだい」と思いつつ、「何に使うの」と聞いたら
「For food」と言うではありませんか。もしかして、急病で家に電話したいのかな、と思ったのです。やっぱり売店でクッキーかポテトチップスを買いたかったのです。1ドルで買えるのはそれだけです。
「親の顔が見たい」というのが、唯一その時の私の気持ちを正確に表わす表現ですが、英語に直訳してもまったくだめなことは知っていましたから、いいませんでした。以前、私が英語学校の生徒だったとき、作文に「I want to see your parent’s faces」と書いて先生がとても不思議な顔をしたのです。
というわけで、どういう場合にお金をあげたらいいのかわからない、というのが今回のレポートの結論です。(素顔のカナダ レポート #5から転載)
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