執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

小渕恵三首相は、自民党総裁選挙の公約として、住宅ローン利子の「所得控除制度」を提唱したが、建設省は現行の「住宅取得促進税制度」(住宅ローン減税)の拡充こそが効果があると強調し、景気対策のための住宅減税をめぐって官邸と建設省との間で火花が散らしている。同じように見えて、発想がまったく違う減税の中身を検証した。

税額控除と所得控除の違い

小渕首相の打ち出したのは、住宅取得の際の借入金にかかる利子額を所得から控除するもの。アメリカでは所得税減税のひとつのツールとして制度化されている。一方、現行の「住宅ローン減税」は、同様に住宅取得の際の借入金にかかる利子額のうち年間30万円までを税額から控除する制度。建設省はこの現行制度の適用期間を6年間から10年間の延長しようと考えている。

仮に住宅取得時に3000万円を借金したとすると、金利5%で年間に支払わなければならない金利総額は150万円。年間収入が1000万円程度のサラリーマンだと、上限税率が20%だから小渕首相案である「所得控除方式」だと減税額は150万円×20%=30万円。建設省の「税額控除方式」でも支払う金利総額150万円のうち30万円まで税金が安くなる。同じである

だが、年間収入が2000万円の人だと、上限税率が30%だから「所得控除方式」による減税額は150万円×30%=45万円となる。「税額控除方式」では30万円のままで変わらない。逆に年間収入が600万円の人では上限税率が10%でしかないから「所得控除方式」では15万円の減税にしかならない。

サラリーマンには「ならば建設省案の方が得ではないか」と映りそうだが、官僚にとっては別の意味で大きな違いなのだ。建設省は表向きは「首相案は高額所得者ほどメリットが大きいから金持ち優遇になる」と反対しているが、これも真相はまったく異なる。

臨時・暫定を強化したい建設省のジレンマ

「租税特別措置法」という法律のことを以前の萬晩報で書いたことがある。所得税や法人税などを「当分の間、減免する」ための法律だ。「当分の間」としているから2、3年の時限的措置となるが、ほとんどの場合、適用が何度も延長されてきた。結果的に2、3年ごとに業界から延長の陳情を受けるという自民党や官僚にとって実に都合のいい制度で、「企業献金の温床」とまで呼ばれる欺瞞に満ちた法律となっている。

実は現行の建設省の「住宅ローン減税」こそが、この租税特別措置法によって「臨時・暫定的」に減税する手法なのである。小渕首相が目指しているのは恒久的な制度改革であるからたぶん所得税法そのものの改正となり、自民党や官僚においしかった2、3年ごとの業界からの陳情がなくなるのである。

建設省が「住宅ローン減税」の適用期間を10年間に延長しようとする時、必ずぶつかるだろうジレンマが予想される。現行の6年という減税期間でさえ「当分の間」という法律が定める期間に抵触する恐れがあるのに、10年という長い期間では到底「当分の間」とはいえない。そうなると「住宅ローン減税」を租税特別措置法というおいしい法律の枠内で処理しきれなくなり、別途「住宅取得金利にかかる臨時特別措置法」などという法案をつくる作業が必要になるはずだ。

住宅政策ではない住宅ローン減税

これまで日本経済は多くの制度が企業中心につくられてきた。1990年代に入ると、企業中心の社会が結果的にバブル経済を生み出したとの反省から、消費者中心社会への転換が叫ばれてきた。今回の小渕内閣の景気対策も実は、消費者中心の社会への転換を目指すものではなく、旧来型の企業中心社会の延長策でしかない。「企業経営が回復すれば、サラリーマンの雇用が確保できる」といった言い訳は聞き飽きた。

現行の住宅ローン減税は一見、国民が住宅を取得しやすくする制度のようにみえる。だが本当は住宅会社、マンション会社をもうけさせるのが目的なので、筋金入りの景気対策なのだ。住宅ローン減税が、国民への住宅政策でないことは、減税が圧倒的に「新築物件」に有利になっていることで一目瞭然である。そして減税が「臨時・暫定的」措置であることが「景気対策」であることの動かぬ証拠なのである。

建設省は、住宅ローンの破綻者を救済するため、住宅金融公庫の利用者に対して返済期間を延長して月々の返済額を軽減する措置を検討中だそうだ。ローンの延長は最大10年だから、ついに日本に40年以上のローンが登場することになる。

政府はこれまで住宅建設を景気回復の道具にしてきたフシがある。ここ15年の間にローン期間は25年、30年、35年と長くしてきただけでない。金利低下に合わせて金利は固定から「変動」に変わり、購入時の負担を軽減するために最初の5年間だけ支払い金額を低くする「ステップ償還」などという”偽り”の軽減措置も導入した。かつては抽選に近かった住宅金融公庫の融資は件数だけでなく融資限度額も大判振るまいをした。

サラリーマンはいつの世だって自分の城がほしいものである。そんなサラリーマンの欲求を逆手にとって住宅融資のハードルを次々と低くしたこれまでの政策は、麻薬患者が次々と刺激性の強い薬物を与えるのと変わらない。

本来は、地価下落によって黙っていれば、ふつうのサラリーマンならマンションの一件ぐらい買えるようになるはずである。買いやすくするということは一方で、住宅価格の高値安定を図ることにもなる。筆者は住宅金融公庫がバブル経済の影の主役だったと考えている。ものには限度というものがある。本来ならば到底、手が届くはずのない金額まで高騰したマンションが融資金額の急増と支払いの軽減策によってなんとか背伸びをすれば買えるようになったからだ。そしてその水準は3000万円から4000万円になり、バブル崩壊の直前には6000万円を超えていた。

今回の措置も救済とは名ばかりで、本当は住宅着工件数の激減になんとか歯止めをかけようとしているようにしか見えない。