起亜自動車買収でフォードの漁夫の利(HABReserch&BrothersReport)
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
●起亜買収には現代グループが優位
起亜自動車の去就が世界の自動車業界の耳目を集めている。起亜は韓国第三位の自動車メーカーでありながら昨年夏、倒産し、政府の管理下にある。フォードが筆頭株主で日本のマツダも上位株主として名を連ねている。その起亜自動車の買収に三星グループが名乗りを上げたところに3月22日、トップの現代自動車も買収の意志を表明した。傘下におさめようと激しく応酬している。
三星グループは稼ぎ頭だった三星電子が過去最高益を上げた1995年、自動車製造への参入を宣言、日産自動車の協力で釜山郊外に年産20万台規模の工場を立ち上げたばかりだ。自動車業界への参入は李ゴンヒ会長の悲願で、巨額の先行投資をしてきただけに「なんとか起亜を傘下におさめてビッグスリーの仲間入り」を果たしたい。
一方の現代グループも自動車製造への特化を目指すためには、なんとしても起亜をグループ化したい意向のようだ。起亜の負債である9兆ウオン(約8100億円)の肩代わりも辞さない考えと伝えられている。
韓国では現在、財閥に対して業種交換などの再編を求めている最中で、起亜自動車の帰趨は、ひとえに政府の腹にかかっている。金大中新政権は、三星に「エレクトロニクス産業に特化する」よう求めているといわれ、いまのところ現代グループの起亜買収が優位に立っているようだ。ただ現代としては、起亜を買収すると国内シェアが66%を超え、韓国の独禁法に抵触する恐れがあるという弱みがある。
●年産能力430万台にも達していた韓国
韓国の自動車業界がどれほどの実力を持っているか知っている日本人は少ないはずだ。「ヒョンダイ」「デーウ」「キア」のブランドはドイツや英国の自動車雑誌などですでに欧州車の対抗車種として紹介されており、低価格、高品質を武器に着実にシェアを伸ばしつつある。
そんな自動車王国にのし上がった韓国から自動車がほとんど日本に輸入されないことは不可解なことだが、欧州やアジアを旅行すれば、どこか日本車に似たデザインの車を見かけているはずだ。
今回の韓国経済の危機であらためて分かったことは、韓国自動車業界の年産能力が430万台にも達していたことである。ピークの国内販売は240万台で輸出は100万台だった。オーバーキャパシティーということはたやすい。しかし日本だって600万台の国内市場に1200万台の年産能力を持っていた時期がある。輸出依存型であるのは日韓とも同じ体質なのだ。
韓国にとって自動車産業はもはや産業の柱だ。製造業の売上高の9.6%を占め、雇用の7.5%を占めるようになっている。経済危機以降、国内販売は半減したが、輸出はウオン安のため好調で、韓国自動車工業界は「今年の国内販売は120万台、輸出は150万台」と予想している。
●アメリカ資本の支配下に入る韓国自動車業界
日本の自動車業界が起亜自動車の帰趨に無関心でいられないのは、フォードの動向だ。フォードは起亜の筆頭株主で、社長を送り込んでいるマツダも株主上位に名を連ねている。財閥の再編中とはいえ韓国政府といえどもフォードの意向を無視した解決はありえないというのが通説だ。仮にフォードが現代をパートナーとして認知することになれば、極東にフォード-マツダ-現代-起亜という巨大グループが誕生する。
フォードが三星に肩入れをすれば、これがフォード-マツダ-三星-起亜となり、提携関係にある日産自動車は完全に用済みとなる可能性が高い。すでにゼネラル・モーターズは第二位の大宇自動車の株式の50%取得に乗り出しており、起亜が現代と三星のどちらかについても韓国自動車業界はアメリカ資本の支配下に入ることは間違いないようだ。