執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】

為替は3年前の1ドル=80円台から130円台へと40%以上も円安に振れている。にも関わらず物価は上がらない。年間40兆円もの輸入があるのにどうもおかしい。一部のブランドは値上げしているが、国内価格の値上げの動きは鈍い。値上げすべきだといっているわけではない。日本の経済は変なのだ。 ●日本車より安く売れるチャンスを逃した輸入ディーラー
1995年7月、輸入車の欧米での現地価格と日本での販売価格を比較して「円高差益還元が少ない」という記事を書いたことがある。メルセデスベンツやボルボなど人気輸入車を10数台比べた。100万円、200万円といった内外価格差はざらだった。もちろん装備の違いはあったが、すべて無視したわけでない。

お決まりの抗議がいくつかあった。メルセデスの長野県のあるディーラーは「共同通信社を告訴する」と息巻いた。当時、欧米車の並行輸入が流行っていた。ボルボなどの並行輸入車は日本の代理店価格より150-200万円安かった。それでももうかっていたのだから、筆者の記事は正しいという自信はあった。

日本フォードの鈴木弘然社長が唯一「いい記事だ」と間接的に誉めてくれたそうだ。ただ「フォード車以外は正しい」との注釈付きだった。誉めてもらったが「マスタングを249万円に値下げしたっていうが、アメリカではオートマとエアコン付きで2万ドル((当時の1ドル=90円換算で180万円)しかしないじゃない」と反論した。

●輸入車は高すぎるという”情報広告”を掲載したフォード
半年後、その鈴木社長にインタビューした。日本フォードとして、フォルクスワーゲンのゴルフが日本でいかに高く販売しているかを具体的価格入りで紹介する広告を大々的に打ったばかりで、そのユニークな広告の真意を問うた。以下はその内容である。

「ゴルフ3ドアはアメリカで1万3150ドル(当時の1ドル=90円換算で120万円)で売っている。日本では5ドアだが264万円だ。オートマ、エアコン、カセット、ABSなどを装備しても1万6445ドル(どう150万円)にしかならないのにですよ。約100万円の使途不明金があるんです。欧州の大衆車の日米価格差はみんな100万円もある」

「あまりにも日本人をばかにした売り方です。いくら日本人が輸入車は高くないとありがたがらない人種だからといってもひどい。企業の価格政策は別にあるべきでしょう。輸入大衆車は年間10万台を超えているから、日本人は価格差分の1000億円を搾取されている勘定になる」

「ゴルフの価格をフォードの」広告に載せたのは”情報広告”というんですか。輸入車ディーラーももっと真面目に日本で売る努力をしなければならないのに、日本のマスコミはその役割を果たしていない。日本人ユーザーに考えるきっかけをつくりたかった。マスコミに視点がないからわれわれがあえてやっただけです」

当然ながら筆者が書いたインタビュー記事では鈴木社長の明快な主張に拍手を送った。鈴木社長は、アメリカでカローラより安く売っても年間に「1万6800台」しか売れていないゴルフが日本でカローラより100万円も高いことに我慢ができなかったのである。

●円高時に法外の利ざやを取った欧米企業
ここまで書けば賢明な萬晩報の読者は筆者が何をいわんとしているか分かっていただけたと思う。1ドル=130円台になっても輸入車の価格がほとんど変わらないのは円高時に法外の利ざやを取っていた証拠でもある。為替が1ドル=100円以上だった時代に内外価格差がなかったとすれば、いまどき3-5割の値上げなしに販売できるはずがない。

このことは乗用車に限った話ではない。輸入商社または欧米のメーカーは当時、日本市場で暴利をむさぼっていたことになる。いま、輸入車が売れないのは不景気だけのせいではない。もちろん円安のせいでもない。日本車より安く売れるチャンスに市場シェアを取っておかなかったつけが巡り巡っているのだ。

当時、輸入品が正当な価格で売っていれば、輸入が急増して1ドル=80円台という超円高はなかっただろうし、その反動の円安もなかったかもしれない。日本の不幸は、消費者もマスコミも騙されたことまだ気付いていないことだ。