納税者にとって気持ちのいい税率
執筆者:伴 武澄【萬晩報主宰】
●ガソリン税は二重課税
02月11日付萬晩報「租税特別措置法で2倍払わされているガソリン税」に対して「ガソリン税には消費税が5%上乗せされている。TAX ON TAXはけしからん」というメールをいくつかもらった。実はたばこ税も酒税も税金に2%の消費税がかかっている。
細かいことだと考えてはいけない。ガソリン税は計3兆円。酒税とたばこ税も計3兆円だ。前者の税金は1500億円で、後者は600億円にもなる。決して小さい金額ではない。税金にかかる消費税などは本来、支払わなくていい税金といえよう。
なぜこうなったか。たばこと酒税は1989年の3%消費税導入時に3%分減税した。道理にあった措置だった。しかし、ガソリン税の場合、本体1リットル28円の税率を臨時的措置(20年以上)として53円にしているから、たばこ税などと同様に調整するには臨時措置をいったんやめてから減税する必要があった。いったん本来に税率に戻せば20年以上も臨時的措置であることが明らかになる。大蔵省としてはなんとしてもそれだけは避けたかった。簡単に言えば国民を騙し続けてきたからくりがばれる恐れがあったのだ。
昨年の3%から5%への消費税率アップではガソリンもたばこも酒も一切減税せずにそのまま2%を上乗せした。国会でも追及されたが、大蔵省は「諸外国でもやっている」と説明、TAX ON TAXはそのままお蔵入りとなった。
諸外国と同様に論じられないのは、酒税の大半を占める日本のビール税やガソリン税の税率が極めて高いからである。税率が小売価格の10%とか20%ならばTAX ON TAXはやむを得ないとして退けることが可能だが、ガソリン税などは小売価格の半分以上が税金だ。
その高い税金にさらに消費税がかかる点を見逃してはならない。すでに5%のガソリン税増税と同じ効果をもたらしているからだ。消費税が3%や5%ならまだしも、これが10%、20%になった時を考えて欲しい。諸外国でもやっている」などと簡単に処理できる問題ではなくなるはずだ。
●払っていいと考える税率は15%
一昨年、フィリピン国会で所得税の増税が論議されたとき、ある下院議員が香港の税制を持ち出した。
「人間には支払っていいと考える税率がある。香港の所得税は15-16%であり、このあたりの税率が納税者にとって気持ちのいい水準ではないか。それ以上に税率を上げれば、納税者は所得隠しを始める。結果的に徴収できる税額は変わらないのではないか」
そんな問題提起を香港の経済誌で読んで「なるほど」と思った。「結果的に徴収できる税額」というのは税制を考える上で非常に重要は哲学なのではないかと考えた。日本の中小業者の納税行動を考えれば、なおさら説得力ある議論ではないだろうか。
戦前のある時期まで、日本に法人税という概念はなかった。欧米にあったかどうかは知らない。法人が上げる収益は株主のもので、収益は配当という形で個人に還元されるから法人税を取らなくとも平等負担の原則が貫ける。そもそも税収全体に占める所得税の割合も極めて小さかったからそんな片意地張った哲学があったかどうか分からない。
●法人税以前に必要な所得税改革
1980年代のレーガン税制改革は、所得税の大規模減税が眼目だった。金持ち優遇との批判もあるが、お金を持っている人々の消費を喚起して国全体の経済を活性化しようとした。20年近く経ってみるとレーガン税制は一定の経済効果をもたらしたといえよう。
一方で、レーガン税制は法人税率を所得税率に近づけるという理念もあった。故松下幸之助翁は「日本の所得税は地方税を合わせると85%にも達する。自分の所得で自由に使えるのはたった15%しかない」と嘆いた。1980年代までの日本はそんな状況だった。消費税の導入でそこらの事情は大幅に緩和され、地方税を合わせた最高税率は65%まで下がっている。問題は、国際的に個人所得税の税率がどんどん下がり法人税に近づいている現状がありながら、日本ではその後そうした議論が起きないことだ。
役員からサラリーマンまでが企業のカネで飲み食いし、ゴルフをするように飼い慣らされているのは根元的に税制に問題があると思っている。サラリーマンの所得に必要経費が認められないという税制上の不公平が一番大きな要素だ。しかし、所得税が法人税と比べて高いという側面も否定できない。サラリーマンにとって給与の中から飲み食いするより、会社の経費で飲み食いした方が税金の負担が小さいという矛盾に突き当たるからだ。
日本の21世紀の税制では所得税を法人税に限りなく近づけなければならない。日本の財界は、毎年のように「法人税を国際的水準にまで下げるよう」政府に要求しているが、所得税の在り方の論議こそが経済活性化の基本であることを知るべきである。
●レシートに込めた台湾の知恵
台湾を旅行したときにもらうレシートをよく見たことがあるだろうか。中国語で「収銀機統一發票」と呼ぶ。レジスターでの共通伝票といった意味である。この「収銀機統一發票」の上部に何桁もの番号がふってある。実は「宝くじ」の番号なのである。月に一回抽選があるため、消費者はどんな買い物をしてもレシートを要求する。
テレビのクイズ番組でも紹介されたから多くの人が知っているだろう。 一時期、コストがかかりすぎるため「中止すべき」との論議もあったが、まだ現在でも続いている。
台湾のレジはみんな共通の様式になっており、宝くじ番号のないレシートはない。付加価値税(消費税)の脱税を防止するため考案されたみごとなアイデアである。