『財政制度審議会が(抑制対象の)Cランクに位置付けた農業予算を削るのは大蔵省の義務だ」(斎藤大蔵事務次官)、「首相は国会で別枠予算を約束した」(大河原農相)、大蔵、農水両省が激しく火花を散らしたウルグアイ・ラウンド関連の農業対策予算。20日内示された 1995度予算の大蔵原案と94年度補正予算案には政府、与党が合意した総事業費(6年で6兆100億円、国費は2兆8000円程度)の6分の1を上回る予算が盛り込まれている。族議員を頻りに、農水省は初年度の「目安」を達成、大蔵省を押し切ったかに見えるが、その実態は-。
「とにかく形だけでも農業予算を増やさないと、族議貝は納得しないぞ」
 予算編成作業が大詰めを迎えた12月初旬。大蔵省の杉本和行主計官は省内会議で部下に訴えた。政府・与党合意の六兆百億円を財政に負担をかけずにいかに実現するかが主計官の腕の見せどころ。大蔵省が出した回答は1995年度当初予算と94年度補正予算を合わせた15ヵ月予算の編成」。つまり、当初予算と同時に編成される補正予算に、ラウンド対策費を押し込む手法だ。
 補正で積み上げ
 「中長期的に影響が及ぶのは当初予算だけ。余計なものは補正で処理し、当初予算はきれいにしておきたい」(大蔵省)、「当初予算でうちだけ突出して増額を勝ち取るのは不可能、ならば補正で稼ぐしかない」(農水省)。両省の思惑がこの時ばかりは一致した。
 実際、補正予算には農業農村整備、共同利用施設整備のほか融資事業も加え4474四億円が計上された。これだけでほぼ一年分近い事業費に匹敵する。
 農業予算のシェアの指標となる一般公共事業に占める農業農村整備事業の比率をみると、大蔵原案では13.11%と前年度よU低下したが、補正を加えると15.63%と近年にない高いシェアに跳ね上がる。
 94年度当初予算でも、大蔵省は公共事業の配分をを見直したい細川首相の意向を受け、農業農村整備のシェアを13.76%から13.25%に減らした。しかし補正を加えると13.73%とほぽ前年度水準を回復していた。
 「波風を立てずにシェアをいじるのに補正を利用している」(事情通)のは明らかで、大蔵省にとっては
「少補正が膨らんでも、少しずつ当初予算を削っていけば、中長期的には歳出抑制につながる」という計算も働いている。
 大蔵次官のけん制
 「6兆円の新事業を実施しても、6年間の農水省の予算は増やさない」。斉藤大蔵次官は周辺にこう漏らしている。ラウンド対策を遂行し、なおかつ農水省の総予算を抑制する「ウルトラC]を実現するため、林野、水産関係も含め従来予算に徹底してメスを入れるのは必至。
 早速、杉本主計官は「大蔵原案では0.1%しか伸びていない農業農村整備の中にラウンド予算は含まれている」と攻勢をかけてきた。以前から「ラウンド対策費は従来予算と別枠」と主張してきた農水省は「総額和がわずかしか伸びていない中でラウンド対策費をねん出すると、従来予算に支障をきたす」と反発。別枠予算の規模をめぐる最終調整は復活折衝に持ち越されたが、どういう基準で従来予算と新規予算を振り分けるかはっきりせず、「別枠論」自体つかみどころがない。結局、両省がお互いのメンツのために複雑な財政テクニックを競い合い、「数字遊び」に興じているのが実態だ。国民には予算の全体像がさっぱり見えず、農
政批判を招きかねない。