「本当にコメがそんなにできているのか」。昨年の凶作から一転、94年産米は大豊作が確実となったが、農水省が発表する作況指数に対してコメ流通業者などから「昨年は低すぎたし、今年は高すぎる」『政治的な意図を感じる』など疑問視する声が相次ぎ出ている。指数が示す収穫量と流通の実態にはずれがあるからだ。作況指数に政策的意図が入る余地はないのか、収穫量をどこまで正確にとらえているのだろうか-。
 ▼わき出た国産米
 作況指数の確度が問題視され始めたのは今年6月。輸入米とのセット販売を余頑なくされてきた卸売業界に突然、国産米作が「次々とわき出てきた」(山種産業)。
 昨年の74という作況指数は「実際より10ポイント、量にして百万トンぐらい少ないぞ」(木徳米穀)「コメ輸入解禁のショック療法のため、農水省は低めの数字を出してきたのではないか」(コメ流通調査機関)などの批判が出た。
 品不足のはずの国産米が予想外に出現し、3月には60キロ5、6万円まで高騰していた卸売価格は大幅な下げに転じた。生産者や卸売業者が怒り、流通業界も昨年の作況指数を疑ったのも当然の成り行きだった。
 ▼「誤差は0.4%」
 作況指数はそもそも収穫量をはじくための係数。1951年から現在の方式となった。地方農政局の統計情報事務所が全国3万ヵ所の田んぼを実際に刈り(坪刈り)、収穫予想ほを8、9、10月の3回にわたって計測、平年作との比較を指数化する。10月の調査結果は農林水産統計観測審議会の農作物作況決定部会に諮って発表する。
 「農水省の統計情報部と需給調整役の食糧庁が作況指数をめぐって論争した」(米穀データバンク)とのうわさが一時飛び交ったが、農水省は「政策的意図で数字が変わることはあり得ない」(大河原農相)と断言。統計情報部も「流通量が増えたのは、作況調査で落とされた規格外米がコメ市場に流れたからではないか。調査は誤差0.4%の高い精度で計算している」(生産統計課)と言う。
 しかし都道府県レベルの調査には疑問も聞かれる。昨年11月、福井県農協中央会は「従来から福井統計情報事務所の調査方法に疑問を持っていた。10月15日時点調査の数字は高すぎる。福井県の実際の作況指数はそれより10ポイントは下回る』などと指摘、北陸農政局に修正を求めた。
 また作況指数の決定には都道府県の農業普及委員や農業試験場、農協代表などの意見を取り入れるため、「最終的には調査結果から1、2ポイント動くことはある」(農水省関係者)。
 ▼部分開放にらむ?
 今年の作況指数「109」(10月15日現在)については、関西の流通業者を中心に「えらく高い」(幸福米穀)、「農水省は12月発表の最終作況をどんなことがあっても109より落とすことはない」(西成米穀)との見方が出ている。その理由は「来年度から始まるコメの部分開放をにらみながら、減反強化を進めようとしているためではないか」(山種産業)と言う。
 月々の作況指数はコメの市況に敏感に反映するため、農家や卸売業にとって大きな関心事で、たとえ1ポイントの違いでも見逃せない。昨年の需給見通しを見誤った食糧庁にとっても、90万トンの輸入米在庫を抱え込むなど財政負担は決して小さくない。
 食糧管理法に代わる「食趣需給価格安定法」(新食糧法)案でもコメの生産最の正確な把握が課題となっているが、その基本となる指標である作況指数への疑いは農政への不信にもつながりかねない。
 流通の突態に詳しい関根丈夫・山種産業米穀部長はこう語った。「多くの経済連は今年の作況指数も信じていない」。