今春のピーク時に比べて半値以下に下落している自由米(ヤミ米)相場。だが、依然、底打ち感は出ていない。ことしは十年ぶりの大豊作が確実なのに加え、落ち込んだ消費が一向に回復せず、需給はますます緩んでいるからだ。このため、自由米業者の中には 「九四年産米の過剰がはっきりする来年三月には、卸値は (現在の半値程度の)六十キロ当たり一万円程度まで下がる」(佐竹利允・日本農産情報会長)との見方も。自由米価格に引きずられて、自主流通米も凶作に見 舞われた去年とは一変、急落の可能性が出てきた。
 ▽入札基準価格は上昇
 自主流通米価格形成機構(沢辺守会長)が二十五日の運営委員会で決めた八、九月分の入札基準価格は、前年より七%上がった昨年実績のさらに一%高となった。
  売り手である全国農業協同組合連合会(全農)側が、買い手の卸売会社側の抵抗を押し切った形だが、「需給関係が全く分かっていない」(内田祥三・全米商連 協同組合専務)と卸売側の反発は強い。ほとんどストップ高となった九四年産早場米の入札とは逆に、今後の入札では下限いっぱいのストップ安や、売れ残りが 出かねない状況だからだ。
 実際、自由米市場の九四年産早場米は既に、自流米機構の落札価格を下回って取引されており、「需給は日に日に緩んでいる」(関西の有力自由米業者)。
 ▽最大の懸念材料
 取引価格の下落は、消費が今年三月のコメ騒動以来、戻っていないのが第一の要因。この自由米業者によれば「四月は前年同月の半分しか売れず、五月、六月は七〇%、七月はそれ以下だった。八月も今のところ七〇%以下」と低調ぶりを嘆く。
 「四月、五月はコメ騒動時の買いだめの反動。七月、八月は猛暑で消費が減退しているためだろうが、それだけでないような気がする」と首をかしげる。
 卸売会社の出荷量も振るわず、約二〇%減の記録的な落ち込みが続いている。東京の大手卸売会社役員は「輸入米やその後のゴタゴタで、消費者がコメに不信感を持った。一番恐れていたことが起こった」と懸念する。ある農水省事務次官OBも「コメ騒動以来、消費者のコメ離れが進んでいるのが、農政の一番の懸念材料」と漏らす。
 生産者と消費者を直接結ぶ「産地直送米」が、九四年産米から本格化しそうなことも、流通業界にとって悩みの種。
 ▽天国と地獄
 九四年産米の作況を「一〇八」と予測した民間の米穀専門調査会社、米穀データバンク(本社東京)はその後、再来年以降に持ち越す余剰米の予想量を、二百五十万トンから三百二十万トンに増やした。
 需給の現状や先行きを考えれば「自由米相場はこの十年間で最低水準になるのは必至。新潟コシヒカリの小売価格でも十キロ四千円ぐらいまで下がるかもしれない」(西口利治・同社副社長)という。
 首都圏の中堅卸売会社社長も「今年が大豊作だと、農協の集荷量は食糧庁の自主流通米と政府米の買い入れ枠を超す可能性がある」と指摘する。
  買い入れ枠を超えた分は政府米の買い入れ価格(六十キロ一万六千三百九十二円)を下回って自由米市場に流れるのが通例。同社長は「六十キロ一万円まで下が るかどうかはともかく、相当の安値を覚悟をした方がよい。待てば待つほど下がるから仕入れは当用買いに徹し、在庫は切り詰める。去年と今年とでは天国と地 獄ぐらい違う」と話す。
 それだけに、自流米機構が去年より高い入札基準価格を決めたことに、「自流米機構に価格形成機能がないことを証明するもの」と卸売会社は強く反発する。
 昨年、軒並みストップ高で入札中止に追い込まれた自流米機構は、今年はストップ安で入札中止に追い込まれる恐れもある。