長期的な軍人支配から30年余、韓国に本格的文民大統領が生まれました。南北対立の政治構造が崩壊した中で、いまだ分裂状態にある祖国のリーダーとしてだけでなく、東南アジア諸国連合(ASEAN)や中国の追い上げで、国際競争力が低下している韓国経済をどう舵とりするか、新しい大統領に世界の目が注がれています。外交、国内維済など山積する金泳三新大統領の政策課題を中心に韓国の今後を占ってみましよう。
 初の民主選挙での大統領
 韓国は1948年、李承晩政権のもとに独立。1961年、朴正煕少将によるクーデター以来。全斗煥、盧泰愚と3人の軍人が大統領を担ってきました。
 昨年12月の大統領選では、金泳三氏と金大中氏の一騎討ちとなりました。結果は、穏健派の金泳三氏が急進派の金大中氏を大差で破りました。
 新大統領は1954年、26歳で最年少の国会議員に選ばれて以来当選9回という最多当選記録を持つ政治家です。大統領選で争った金大中氏とともに野党側から韓国の民主化運動を闘ってきました。これまでも何度か大統領選挙に挑戦しましたが。与党の厚い壁に阻まれました。しかし90年の与野党合同で民主党党首として新しい民自党に合流、ようやく与党の大統領候補となるきっかけをつかみました。
 一方の対立候補の金大中氏は朴政権下の73年、東京のホテルから拉致され、80年には非常事態下で逮捕、死刑が宣告されるなど反体制派の反骨の士として日本でも馴染みの深い政治家でした。
 金泳三氏は長い体制運動の闘士としての実績はともかく政権運営能力はいまだ未知数ですが、韓国国民にとって、「初めて本格的な民主主義によって大統領を選出した」という安堵感があるようです。16年ぶりに大統領直接選挙が実施された87年でも。火炎瓶と催涙弾が飛び交う中で行なわれたからです。
 韓国では、建国半世紀でようやく政治的成熟の第一歩を踏み出したという印象が広がっているようです。これまで朝鮮半鳥をめぐる国際情勢がそれだけ厳しかったという証ではないでしょうか。東西対立という戦後体制の崩壊が韓国の政治環境に大きな影響を与えたといって間違いありません。
 急速な南北統一は韓国に重荷
 金泳三新大統領の最大の課題は北朝鮮との緊張緩和、そして民族の悲願である南北統一への道のりをどうつけるかということになりそうです。
 現在、韓国、北朝鮮双方から統一に向けたシナリオが描かれていますが。どちら現実性が薄いものです。片方による軍事的併合にいたってはそれこそ非現実的な考え方でしょう。そうなると南北統一が実現するにはいまのところ北朝鮮の金日成体制の自らによる崩壊しか弩えられません。
 国家統合は。東西ドイッでみられたように非常にコストを伴うものであることが分かってきました。単に民族の悲願とばかりいっていられない事態なのです。
 社会主義と自由経済という体制の違うふたつの社会がそのまま統合された場合、自由社会側に大きなお荷物となります。西ドイツでさえ統合によって経済の根幹が揺らいでいるくらいです。まして経済的基盤のそんなに強くなく、民主主義の歴史も浅い韓国にとって、北朝鮮は相当な重荷になることは確実です。
 このことは韓国側もすでにドイツ統一の経験を十二分に調査済みです。ですから韓国で数年前に起きた北朝鮮ブームも、現在ではかなり鎮静化しているといわれます。
 新大統領にとっての課題は、統一を急ぐというよりも経済と文化の交流を活発化して、軍事的緊張を緩和することになるでしょう。北朝鮮に望まれているのは、中国のような独裁体制下での経済開放政策の推進です。韓国としては、民間経済の力も借りて今後、北朝鮮経済活性化への取り組みを強化せざるを得なくなるでしょう。
 国際競争力の回復も課題
 新人統領にとって南北統一と並んで重要なのは韓国産業の国際競争力の回復です。85年のプラザ合意による円高以降、韓国経済は目覚ましい成長を遂げましたが、ASEANや中国の追い上げにより90年代からは急速に国際競争力を失いつつあります。賃金の大幅上昇により、途上国の低コスト製品と先進国の高品質のハイテク商品との挟み打ちにあつている状況といえましょう。
 いまのところ国内消費が比較的順調で内需を中心とした成長を維持していますが、頼みの輸出に陰りが見えています。この結果、一時は年間200億ドル近くあった貿易黒字もあっという間にゼロになってしまっています。
 ただ、北東アジアでの韓国の存在はこれまで以上に大きくなるでしょう。盧泰愚大統領が敷いた極東ロシアと中国への接近という経済路線は将来性が期待されています。すでに中国山東省と吉林省延辺地区への韓国資本の進出は軌道に乗っており、現地の韓国経済への期待も高まっています。また極東ロシアヘの関心も高く、現代財閥などは数年前から、30億ドルの資金をエネルギーを中心としたシベリアの資源開発に投人することを約束しています。
 東アジアの安定勢カヘ
 国際的にはアメリカとの蜜月峙代が終焉、日本とも対等外交が望まれることになるでしょう。アメリカはいまでも朝鮮半島に大きな軍事的利害を持っています。韓国の安定は東アジア全体の安定に欠かせない要素だからです。しかしながら。米韓関係はもはやかつてのような庇護し庇護される間柄ではなくなります。経済的にはアメリカは韓国に対してこれまで以上に市場開放を求めるでしょうし、現実に経済摩擦も激化しているのです。
 日本との関係でも援助国、被援助国との関係はもはやなくなり、韓国自身が途上国に対して援助する側に回っています。慰安婦問題に象徴されるように依然として在日韓國国人・朝鮮人の問題は深刻で、産業構造としてもハイテク部品を日本に依存する体質が残っていますが、共産主義世界への対抗措置として、日韓が「癒着」する必要性はもはやなくなっています。日本語教育を受けた世代が政治から後退していくに従って、日韓関係の正常化はやりやすくなるのではないでしょうか。
 注目したいのは、やはり韓国の北方戦略です。ロシア、中国、そして北朝鮮との間で経済交流が活発化すれば、陸続きですから自動的にひとつの地域経済圏が生まれ、結果的に北東アジアにおける韓国の政治的影響力が増していくことになりましょう。(共同通信・伴武澄)